気まぐれ

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 きっかけは何でもなくて、親から「人手が足りない」と言われたことだった。渋っていたがその日は暇だったし、謝礼を弾むと言われて暇つぶし程度に行くことにした。  両親がやっている絵画教室。  父親は大学の講師もしていて、いわゆる教育学部で「図画工作」の教育法について教えている。相手にする学生のほとんどが小学校教諭希望で、水彩絵の具の使い方の基本的なことや糸ノコの使い方などを教えているらしい。  本当は絵を描いて生計を立てたかったようだということは何となく成長するに従って分かったけれども、家族の生活のために大学の講師をしてくれている父親に、時々反発もするけれども心の奥底で基本的に感謝をしている。 「今日はこのお兄さんを描くよ」  父が家では見せない、「先生」の顔をして子どもたちの前に立つ。「このお兄さん」と指名された俺は軽く会釈して大きな机の前に立った。
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