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じたいはきゅうてんちょっか
そのうちに、ぼうけんのタネもつきたころ、太郎がきゅうに、立ち止まりました。
そして、さんにんに向かって言ったのです。
「ねえ、ぼく、すごくたのしかったんだけどさ」
さんにんはいつになく、しんけんなおももちです。
太郎はあんのじょう、こう続けました。
「やっぱりぼく、地に足をつけて生きてみたいんだ」
太郎はもともと、凡庸なひとなのです。それはさんにんもよく分かっていました。
でも、やっぱり太郎とははなれがたかったのです。
「だから……」次のことばに、さんにんはそろってごくりとつばをのみました。
「ここで、いったん解散にしてもいいかな?」
もちろん、反対だというものは誰もいませんでした。
誰もが、太郎にくびったけだったのです。
キジちゃんは、目にいっぱい涙をためたまま
―― ぎゅむ
太郎にしがみつきました。
「たのしかった、です。ありがとう、です」
太郎のこどうがいっしゅん止まり、次の瞬間、
―― しゃららららららら……
次から次へと、桃が生まれ落ちました。
モンキーは目を真っ赤にしながらも、前に進み出て生まれた桃を片っ端から拾い上げました。それを両脇に抱えるようにしながら
「いい? いつでも呼ぶのよ、困ったときには」
ようやく、それだけ言いました。
深くうなずく太郎は、次に、ワンちゃんの方をまっすぐ見上げました。
ワンちゃんは、肩をふるわせ、鼻水までたらしています。
「じゃあね、ワンちゃんも元気で」
ばっきゃーーーーーろーーーーーーぉぉっっっ
ワンちゃんの渾身のアッパーカットが、太郎のあごをとらえました。
それからしばらく、太郎はいしきがもどりませんでした。
夜空に満点の星が輝くころ、ようやく太郎は意識が戻りました。
そして、ひとりきりの道を、歩いていったのでした。
意識は戻ったのですが、記憶はいまひとつ、しっかり戻っておりません。
ただ、太郎は小さくこう、つぶやいていました。
「じみちに、くらすぞ、じみちに、じみち、じみ、じ……」
太郎はその後、小さなアパートをみつけて転がり込み、毎週スーパーで無料配布される冊子から働き口をさがし、ようやく仕事をみつけました。
とりあえず、めでたし、めでたし。
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