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とりあえず、目的地は給食室に定めた。
給食のおばさんなら今の状況について詳しい話を聞けるだろう。
ゾンビに見つからないように、時に身を屈め、時にロッカーに身を隠しながら慎重に進んだ。
だが給食室まであと少しというところで、金髪の不良ゾンビに遭遇してしまった。
前方からこっちに真直に向かってくる。
「青りんご!」
不良ゾンビが叫んだ。常に口から洩れている低い唸り声とは対照的な、なんとも甲高い声だった。カズオにはそれが不気味に感じた。
不良ゾンビの体当たりを一抹に避けたカズオは、風邪で寝込むよしこの顔を思い浮かべた。
「よしこのために!」
よしこを思って繰り出されたストレートパンチが、吸い込まれるように不良ゾンビの頬へ入る。自分でも驚くほど綺麗に決まった。
目を回して大の字に倒れた不良ゾンビに、カズオは深く息をついて呼吸を整えた。
果てしなく動きがゾンビだが、体は生身の人間。ワンパンで沈んでくれたことに、ほっとした。
それもつかの間、低い唸り声が別方向から聞こえてくることに気づき、休んでいる暇はないようだと察したカズオは、給食室へ急いだ。
階段を駆け下りて目的地の前まで来たとき、カズオは一度立ち止まった。
給食室の扉が、開いている。嫌な予感を抱きながら、扉の先へと駆け込んだ。
「これは…」
ありえないほど床に散乱した調理器具。鍋はひっくり返されていて、味噌汁が零れている。
投げ出された食材が、生気を失ったように雑然と横たわっていた。
まるで台風が通過したあとのようだ。
うちのクラスの給食当番は優秀だったのでてきぱきとワゴンが教室まで運び込まれていたが、この様子だと持ち込めていないクラスもあっただろう。
カズオはそれらを踏まないようにつま先を立てて、そろりそろりと奥へと進んでいった。
静けさの中に、どこからかうめき声が交じった。
声を辿っていくと、ひとりの女性が仰向けに倒れていた。その手にはひしゃげたおたまが握られている。
カズオは彼女に見覚えがあった。
「給食のおばさん…!」
カズオの声に、給食のおばさんは微かに目を開けた。
「ああ…ごめんなさい…」
「なにがあったんですか、誰にやられたんですか」
問いかけても、カズオの声は届いていないようだった。
ただ、彼女は小さな声で何度も謝っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…青りんごゼリー、守れなかった…」
そう言って一筋の涙を流すと、給食のおばさんはふっと意識を失ってしまった。
カズオは叫んだ。給食のおばさん、と叫んだ。
笑顔が素敵な彼女は生徒から人気があった。
そんな給食のおばさんすら、犯人は傷つけたというのか。
本来の姿から変貌したおたまが、給食のおばさんが壮絶な戦闘を繰り広げたことを物語っていた。
胸が痛かった。そしてますます犯人が許せなかった。
給食室を後にしたカズオに、ゾンビと化した生徒が襲い掛かってくる。
怒りにまかせて、カズオは彼らをなぎ倒していった。
所々かすり傷を負ったが、カズオは次の目的地である職員室へと構わず突き進んでいった。
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