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次の朝も、相変わらず光の射さない寝室で目を覚ました。
今日は夜勤だから、彼はもう出かけている。
あと一時間ほどで帰ってくるのに、それまでには出社しなくてはならないのがもどかしい。
彼のいない寝室には用がないので、あくびを噛み殺しながらリビングに行った。
「まぶしー」
左腕の袖を捲りあげる。
今日も眠り姫からのメッセージがそこにあった。
『かってにころすな』
チクリとした罪悪感とともに、困ったような笑い顔が目に浮かぶ。
大学時代、私が彼に惚れ告白にまで至ったのは、今思うとこの笑顔がきっかけだった。
少年のような百パーセントの笑顔ではない。
どこか悩みを隠しきれていないような、欠けた月のような笑みだ。
寝顔しか見せない最近では、まるきり子供のような無邪気さなのだけれど。
カーテンを開けないままに寝室を後にする。
あの部屋はいつも夜だ。
今日のような、彼のいないときも変わらない。
あの部屋に永遠に朝は来なくて、それがなんだか妙に心地いい。
「今日もオムレツかぁ」
彼がつくり置いた朝食が、行儀よくテーブルに並んでいる。
Rは料理が得意な方ではないが、交代で食事を作ってくれていた。
あまりレパートリーがないから、いつも私の真似ばかりしているけれど。
「明日って……」
ケチャップをたっぷりとかけながら、ふと気づく。
今日が夜勤ということは、明日は休みだ。
今度こそは期待できるかもしれない。
残業なんか絶対入れるもんか。
デートは無理でも、動くRを一日中ベタベタと愛でてやる。
「よっしゃ!」
柄にもなく大きめの声を出して、意気揚々とご飯を掻き込む。
ブラウスに着替えようとして、慌てて腕の文字を洗い流した。
今夜はこのことで、いっぱい文句を言ってやろう。
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