常夜のレターボックス

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***  次の朝も、相変わらず光の射さない寝室で目を覚ました。 今日は夜勤だから、彼はもう出かけている。 あと一時間ほどで帰ってくるのに、それまでには出社しなくてはならないのがもどかしい。 彼のいない寝室には用がないので、あくびを噛み殺しながらリビングに行った。 「まぶしー」  左腕の袖を捲りあげる。 今日も眠り姫からのメッセージがそこにあった。 『かってにころすな』  チクリとした罪悪感とともに、困ったような笑い顔が目に浮かぶ。 大学時代、私が彼に惚れ告白にまで至ったのは、今思うとこの笑顔がきっかけだった。 少年のような百パーセントの笑顔ではない。 どこか悩みを隠しきれていないような、欠けた月のような笑みだ。 寝顔しか見せない最近では、まるきり子供のような無邪気さなのだけれど。  カーテンを開けないままに寝室を後にする。 あの部屋はいつも夜だ。 今日のような、彼のいないときも変わらない。 あの部屋に永遠に朝は来なくて、それがなんだか妙に心地いい。 「今日もオムレツかぁ」  彼がつくり置いた朝食が、行儀よくテーブルに並んでいる。 Rは料理が得意な方ではないが、交代で食事を作ってくれていた。 あまりレパートリーがないから、いつも私の真似ばかりしているけれど。 「明日って……」  ケチャップをたっぷりとかけながら、ふと気づく。 今日が夜勤ということは、明日は休みだ。 今度こそは期待できるかもしれない。 残業なんか絶対入れるもんか。 デートは無理でも、動くRを一日中ベタベタと愛でてやる。 「よっしゃ!」  柄にもなく大きめの声を出して、意気揚々とご飯を掻き込む。 ブラウスに着替えようとして、慌てて腕の文字を洗い流した。 今夜はこのことで、いっぱい文句を言ってやろう。
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