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オータムブロッサム
もう十月も末だというのに、今でもあの春を見ている。日に日に涼を帯びる風に頬を撫でられ、山下祐樹は悲しみとも憂いともつかない笑みを浮かべた。
ずっと、彼女のことが頭から離れない。アパートの五階、そのベランダで、祐樹は煙草の煙を吐き出した。煙はすぐにかき消され、反対に風が運んだ金木犀の匂いが鼻をくすぐる。そのノスタルジーな香りに胸が焼け、祐樹はむせそうになる。
明日でちょうど五年か。それは奇しくも祐樹の誕生日。頭では拒絶しても、あの桜の木の幻想を見てしまう。年々強くなる、形容しがたい空虚と共に。
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