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「あ」
思わず声が漏れたのは、例の女の子に再び出会ったからだった。事件から一週間、帰宅すべく校門を出たところで、彼女の後姿を見つけた。祐樹の声が聞こえたのか、女の子も祐樹の方を振り返った。
「ど、どうも」
「あ…こんにちは」
居心地が悪そうに、女の子はぺこりと頭を下げた。二人は無言で歩き出す。祐樹が前、女の子が後ろ。近くて遠い距離感を保ちながら、明らかに互いが互いを意識している。やがて沈黙に耐えられなくなった祐樹は、意を決して振り返った。
「あ、あのさ」
猛獣に睨まれた小動物さながら、女の子はびくりと肩を震わせる。弁解するように、祐樹は両手を身体の前で振った。
「いや、その、せっかくだからと思って」
祐樹はしどろもどろになった。何がせっかくなんだ。自分でも意味不明で笑いそうになる。とりあえず何か話題を。祐樹は言葉を振り絞った。
「き、今日は良い天気だね」
「えっ、そうですか…?」
はっとして祐樹は空を見上げる。今日は午前中雨、午後から曇り。お世辞にも天気は良くなかった。
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