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僕はどこにいる?
今日は僕が勤務する小学校の遠足。僕は受け持ちのクラスを引率している。
一日たっぷり遊んだ帰り道、僕は疲れて遅れがちになっている女子児童に手を差し出した。色白でかわいいU崎J子ちゃんだ。
僕の手をつかもうと、差し出される小さな手。ところが、U崎J子の手を握ろうとした瞬間、彼女の姿は掻き消えてしまった。まるで煙が拡散するように、目の前からいなくなってしまったのだ。そして僕の手を握り返してきたのは、見慣れない服装をした、見知らぬ子供だった。
「あれっ、君はだれ?」その言葉を発した瞬間に、天と地がひっくり返ったような錯覚に襲われた。周囲の景色がグルグルと回り、続いて気分が悪くなった。
どれくらいの時間が経っただろう、清潔なシーツが敷かれたベッドの上で僕は目覚めた。
ここはどこだろう? と見回すと、白いクロス張りの壁や白いカーテンが引かれたパーテーションが目に飛び込んできた。どうやらここは病院で、僕は気を失った際にここへ運び込まれたようだ。
「まあ、やっと気がつかれましたね」
キョロキョロと周囲を見回していると、年配の女医らしき人が引き戸を開けて入ってきて、声をかけられた。
「あのう…ここは?」
「××病院の病室ですよ」
「××病院…。僕はどうしてここに?」
「まあ、何も覚えていらっしゃらないの? 遠足の帰り道で足を滑らせて転倒したことも」
「えっ、僕が転倒? もしかしたら、あの時に」
「はい。山道で転んで頭を打たれたのですよ。それで救急車を呼ばれて、ここに運ばれたのです」
僕は女医の顔をじっと見つめた。彼女が言うように、ここは××という病院の病室なのだろう。白っぽい無機質な部屋の雰囲気や、壁に張られた医療系のポスターでそうとわかる。だが、どうにも違和感があるのはなぜだろう。怪訝な顔をしていると、女医の方から自己紹介してきた。
「私はここの医師でT中と申します。あなたが運ばれてきた時に…」
とりあえずの説明をしてもらったところで、僕は少し安心することができた。どうやら今日の遠足も、僕が転倒して気を失ったこと以外は無事に終了して、生徒も家へと戻ったらしい。
ひとまず胸をなでおろすことはできたが、奇妙な違和感はくすぶったままだった。それはこの女医に原因がある。彼女の言葉遣いは丁寧で、とても流暢だ。しかし、どこかイントネーションがおかしく、まるで外国人が喋っているように聞こえた。僕は胸の中にくすぶり始めた疑問をぶつけることにした。
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