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「おじいちゃん、なんで怒ってるの?」
無垢な目の舞が、ひとり縁側で空を睨む善治に声をかけた。
途端、針金細工のように筋張っていた身体から力が抜け、老人らしい丸みを帯びる。
「ん、いや、怒ってなんぞ」
わずか四歳でも、ひとつ屋根の下で暮らしていれば色々なことに気づく。
朝食中妙に口数が少なかったり、食事を終えるなりすぐに席を立ったり、いつもはトヨ子の付き合いでしか見ない庭木をひとりで眺めたり。
しかし、それには妻や息子夫婦も気づいていたものの、口に出す者はいなかった。
ただひとり孫の舞だけが、善治の異変に気づける知能と、思ったことを口にできる幼さとを兼ね備えていた。
「じゃあ、おなか痛い? びょうき?」
「う、うん、そうだな。少し痛いかもしれん」
塀沿いに咲く白丁花から視線を外せないまま、善治の言葉は尻すぼみになる。
日頃から正直であれと言ってきたのに、まさかこんな形で嘘をつくことになろうとは。
「たいへん! おばあちゃーん!」
「い、いや、すぐに治――」
「びょうき! おじいちゃんがびょーきー!」
普段の毅然とした態度はどこへやら、善治はおろおろと舞に言い訳をする。
それも普段し慣れていないものだから、あの、とか、その、の繰り返しで、意味もなければ用もなさなかった。
おかげでトヨ子は白い前掛けで手を拭き拭き、小走りで現れる。
華奢な身体と品のある顔立ちは、庭に咲く白丁花を思わせた。
「たいへんなの! おじいちゃんがね、おなか痛いって!」
「あら大変」
「病院いくの? おちゅうしゃする?」
「大丈夫よ、おばあちゃんに任せてちょうだい。舞ちゃん、代わりにお母さんのお手伝いをお願いできる?」
「うん!」
手際よく人払いを済ませると、トヨ子は隣りに腰を下ろした。
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