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後日
姫の新しい執事は、自分の考えを確認するために、前の執事の隠居していた家を訪ねた。
「それで間違いない」
前の執事は新しい執事に、決して口外しない事を条件にあの二人のやり取りを説明した。
あの白紙の手紙。
王子側から姫にはずっと駆け落ちの計画についての内容が送られていた。
二人は検閲に読まれないように白紙の手紙で会話をする方法を戦争が始まる前から打ち合わせをしていた。
戦争で使われる『長』と『短』で文字を伝える信号のように、二人は折り目のみで会話をしていた。
罫線に並行に折った時と、垂直に折った時で『長』と『短』を作っていた。
手紙は燃やされる。
なので、昨日の折り目は二人の頭にしか残らない。
「あの、2枚、3枚と複数の手紙が送られることもあったと聞きましたが?」
新しい執事の問いに、前の執事が頷いた。
「例えば、信号が三つ同じものなら、同じ折り目で三枚、二枚と一緒に入れておく。
これは『手紙に二人にしかわからない何かが書かれているのかもしれない』と我々に思わせるカモフラージュにも使える。
それに、信号を正確に伝えるために区切る場所をハッキリさせる意味もある」
「なるほど」
それを聞いて、新しい執事は『なぜ姫と王子が、白紙の紙を食い入るように読んでい他のかの謎も解けた。
「頭の中で前日までの信号を思い出していた。その作業が側から見ると手紙を読んでいるように見えた」
「そうじゃ」
それを確かめると、新しい執事は城に戻った。
城内は相変わらず、消えた姫の捜索に追われていた。
新しい執事は、姫が見つからない事を心の中で祈った。こんなくだらない争いをしている場所に連れ戻して、何の意味があるのか?
翌日、新しい執事も体調不良を理由に執事を辞めた。
新しい執事が気になったのは、姫は王子に何の信号を送っていたのだろう?
さしずめ、愛してるなどの言葉だろうか?
それとも、二人を引き離した戦争への怒りだろうか?
それを確かめたくても、手紙は全て灰になり、もうこの世にはない。
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