白紙の手紙

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白紙の手紙

 敵対している国同士の王子と姫は愛し合っていた。  戦争になりました。  もちろん会うことは許されなくなった。  が、お互いに手紙を書くことは許される事となった。しかし、もちろん書いた内容には毎回検閲が入る上、一度読んだら、手紙はお互いの執事が責任を持って燃やすことに。  早速、王子から姫に最初の手紙が送られた。しかし、その内容を見て検閲は首をひねった。  白紙。  封筒から手紙を取り出して、半分に折られた紙を開いても何も書かれていない。  太陽の光に照らしてみても、炙り出しだろうかと火にかけてみても、何も文字は浮かび上がってこなかった。 「間違えて白紙の手紙を送ってしまったのか?」と検閲は思い、その手紙を姫に届けた。  姫は送られてきた手紙の封を開け、広げて読み出すと笑みを零した。  執事がチラッと覗いたが、文字は書かれていない。やはり白紙である。  姫が読み終えると、執事は責任を持ってその手紙を燃やした。  姫も返事の手紙を王子に送った。  紙を折って、封に入れ、執事に渡し、姫の返事は王子の国に送られ、検閲にかけられた。  検閲が封から手紙を取り出して開くと、また首を捻ってしまった。 「まただ」  姫からの手紙はまたしても白紙であった。しかも、二枚。  一枚ならまだしも二枚。何か書いてあるとしか思えない。  どんな仕掛けが施されているのか? 検閲はその手紙を更に隈なく調べた。四隅に折り目などがついているのでは? 小さい点などがあるのでは?  しかし、何も見つからない。  封筒に秘密のがあるのでは? と、封筒を広げてまで調べられたが、何も見つからなかった。  姫からの手紙を見て王子も喜び、すぐに返事を書き始めた。  ……また、白紙。  それに姫は返事を書く。それも白紙。  そんな手紙のやり取りが始まって二ヶ月が経った。  一枚だったり、二枚だったり、たまに三枚という長い手紙の時もあるが、紙には何も書かれていないのだ。  しかし、姫も王子をその手紙を何か言葉を噛みしめるように、長い時間、見つめているのだという。 「全くわからない」  検閲は調べても何も出てこないので、「白紙の手紙を送り合う理由は何か?」ということを考え始めた。  その為に、長年二人を世話している王子と姫の執事が会議に呼ばれた。 「もしかしたら姫は、王子から手紙が届くということ自体に喜びを感じているのかもしれません」  姫の執事の言葉に室内にいた検閲官、役人たちは顔を見合わせた。 「二人は汚れを知らずに育てられました。離れていても心が通じ合っているということを確認することに意味があるのではないでしょうか?」 「つまり、手紙には意味はないと?」  執事は頷いた。 「手紙の内容ではなく、『相手に手紙を送っていること自体』に意味があるのだと思います」  白紙ならば検閲に引っかかる恐れはない。確実に愛を届けるのなら、白紙が一番確実である。  執事の意見に場にいた人々は納得した。  その二人の美しいやり取りは城下にも届き、つまらない諍いを続けている両国の間では反戦を訴える輩までは現れだした。  しかし、それからしばらくして、執事は考えが間違えていたことを知る。  戦争が始まって半年以上が経過していた。  きっかけは姫が手紙を送っていた便箋がなくなり、執事に新しいものを頼んだ時であった。 「この紙は気に入りません。別の紙にしてください」  執事は首をひねった。  それは罫線が引かれていない白紙の紙であった。絵が好きな姫の為に執事が気を利かせたものであったのだが。  すぐに最初のと同じ便箋を渡すと姫はホッとした顔を浮かべた。  執事は姫のその顔を見て、自分が大きな勘違いをしていたことに気付いた。 しかし、その事を確認しようと、執事は王子から届いた手紙を見直したいと思ったが、すでに自分が全て燃やしてしまっていた。  翌日から王子からの手紙を読む姫と手紙に注意を払うと、執事の懸念は確信に変わった。  その事を姫に問いただす。 「その通りです」  姫は長年の付き合いである執事であるがゆえ、正直に全てを打ち明けた。  姫と王子の決意が本気だとわかった執事は、二人の駆け落ちを手助けするべく、決行の数日前に加齢を理由に執事を退職した。  そして、ある日の夜。  姫は最低限の資金だけを持って、城の下水に掘られた穴から、近くの川に出た。そこで待っていた馬車に乗った王子と再会し、遠くの誰も二人を知らない国に逃げた。  翌朝、手紙を姫に届けに来た新しい執事が、姫がいないことに気付いた。  驚いた執事は手紙の封を開け、何か書いていないかを調べた。しかし、そこには、いつもと同じ半分に折られた白紙の手紙。 「あれ?」  新しい執事は、手紙に違和感を覚えた。そして、捨て忘れていた昨日の姫への手紙をふと確認してみた。 「そうか……」  新しい執事は謎が解けた。  しかし、それに気付いても、もう手紙は全て燃えてしまっており、何も残っていない。
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