前編/1話 1-1 

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しかし、それが実となる前に静の目線を遮るように少女が立ちふさがった。  年は同じくらいで緩くウェーブのかかった茶色いロングヘアの気が強そうな少女だ。  白のワイシャツに校章付きのタイ、黒地に細いチェックの入ったミニスカートからは細い足がのぞき、フードのついた紫のロングカーディガンを羽織っている。  特徴的ないで立ちは近所の有名な私立高のものだ。  そして、隣にいる背の高い整った顔立ちの少年の着ている白を基調とした制服も、少女とは違う有名な男子校のものだ。  茶髪で今風の髪型で遊びなれてそうな雰囲気の彼と彼女はパッと見恋人のようにも見える。  少女は心配そうな視線を静に向けて、少年は遠くを見ているふりをしてあの路地を見ているのが静にもわかった。  しかし、それがなぜか考えている余裕はない。織羽を支えになんとか立っているがまだ体に力が入らない。  それでもなんとか平静を装って少女に向き直る。 「平気です・・・少し休めばなんとかなりますから」 「そう、そんなふうには見えないけれど?・・・」 「蒼月さん、少しベンチで休んでいきますか?」  織羽の提案に乗りたいのは山々だが、静としては一刻も早くこの場を離れたかった。  背中に寒気が走る。体調不良が原因ではない。漠然とした嫌な予感に起因した怖れにより起こったものだと直感していた。 「いえ、帰りましょう。早く家で休みたいです」  静は何とか両足に力を入れて支え無しで立つ。  無理をしているのは明白で織羽も心配そうな視線を向けながらこのまま帰っていいのか判断しかねているようだった。 「力也」 「おう」  少女が少年に声をかける。少年は示し合わせたように誰もいないあの路地に向かって行く。  ちらりと視線だけで見送った後、少女は静を支えるように寄り添った。 「無理はよくないですよ。私も付き添います、どうせ暇なので。あなたはこの子の父親かなにか?」 「ええと、親戚みたいなものです」  少女に問われた織羽がおずおずと答える。  関係性としては知人だが、面識のない彼女に詳しく説明する必要もないと判断したのか適当に濁している。  あごに手を当ててふむ、と納得したようなそぶりを見せた少女はどうやら本当に静たちと一緒に来てくれるつもりらしい。  初対面の彼女にそこまでしてもらうのはさすがに気が引けた。どうしようか問うように静が織羽に視線を向けると、同じように困惑した瞳と視線がぶつかる。  そんな様子を見ていた少女がふたりが何かを言う前に畳みかけるように喋り出す。 「本当に気にしなくていいですよ。やりたくてやってるんで。まあ、袖すり合うもなんとやらというやつでしょう?」 「・・・お気持ちはありがたいのですが、僕たちは荻窪方面に戻るので結構かかってしまいますよ?お時間は大丈夫ですか?」 「全然オッケーでーす。夜遊び慣れてるんで」 「・・・それもあまりいいことではありませんけど」 「あ、お説教は聞きませんよ。私は鳳梨嶺衣奈《ほうり れいな》です」  話は終わりだと言わんばかりに鳳梨は手を突き出した。  どうやら彼女の意思が固いらしいということを目線から読み取った織羽は、少し悩んでいる風ではあったが鳳梨と握手する。 「僕は織羽國定、この子は蒼月静さんです。まあ、そのよろしくお願いします」 「ええ、こちらこそ。じゃあ行きましょうか」 「蒼月さん歩けますか」 「大丈夫です」  少しずつ気力が戻ってきた静は織羽の目を見てはっきりと返事をする。 「辛くなったら言ってください。鳳梨さん地下鉄を使います」 「了解です」 「・・・無理しなくていいからね。それが辛いの良く解かっているから」 鳳梨の返事を聞いて織羽は静の様子を気にしつつ、先導を始める。  静の耳元で鳳梨が耳打ちをした。 何か含みのある言い方に静が聞き返そうとするが、鳳梨が織羽に話しかけ始めてしまって言いかけた言葉を飲んだ。 「そういえば随分と仲がいいですね。年の離れた親戚って会ったことないから羨ましいです」 「・・・ええと、そうかなぁ?仲がいいというかたまたま僕がこちらに出てくる用事が出来たので久しぶりに食事でもしようかってことになったんですよ」 鳳梨のふってくる雑談に適当な作り話で答える織羽。ただ嘘が上手くなく歯切れが悪いの受け答えだが、鳳梨は気にしていないようだった。 「ここら辺、なんかいいお店ありましたっけ?学園都市だからそんなにいいディナーの店って聞いたことないんですけど・・・」 「ああ・・・日見ノ森に来たのは食事のために来たんじゃなくて彼女の友人に手帳を返すために待ち合わせただけなんですよ。成世女学院の子で・・・」 「それって日柳翆のことだったりします?」  唐突に出てきた知り合いの名前に織羽と静が同時に鳳梨の顔を見た。 「お知り合いだったんですか?」  目を丸くしながら静が問う。 「うん。同じクラブに入っててふたりの事、あいつたまに話してたから」  ふふん、となぜかクイズに正解したような顔で鳳梨が答える。  しかし、制服からして鳳梨と日柳は通っている学校が違う。外部のサークルか何かだろうか?日柳からそのようなクラブに所属しているような話は聞いたことがない。  興味が湧くと同時に警戒心が一気に解けた。静は楽しそうに鳳梨に質問を続ける。 「日柳さんからその話は聞いたことないです。どんなクラブですか?」 「読書クラブみたいなものですよ。元々、収集家の人が始めたんですけど、その人が自分の蔵書を会員限定に公開して読書会とか研究会みたいなことやってるんです」 「研究会ですか?文献の類もあるんですか?」  どうやら織羽も興味を引かれたらしく話に乗ってくる。 「そうですね。正直、読書会よりそっちがメインなんですよ」 「へぇ、面白そうですね」 「難しいですけどね。正直、私は得意ではないです」  少し不満げにする鳳梨に静たちは苦笑した。  人波をくぐりながら三人はワイワイと話しながら改札に到着する。
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