オレンジ髪の子はちょっと腹黒

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「おかえり~」 今日も爽やかな笑顔で迎えられる。 毎日のことだけど慣れることない気がする…。 こんなキラキラした男の子と関わることない人生だったし、これからもそうだと思ってたのに。 でも今はそんなことどうでもいい。 それくらいに仕事の後は疲れてしまう。 「今日もかなり疲れてるね。 お風呂は沸かしてあるよ、ご飯もあるから軽く食べな」 「……ありがとう」 意味もなく泣けてきて鼻を啜りながらお礼を言った。 「あのさ毎日毎日、何にそんなに疲れてるの? 話してみたら楽になるかもよ」 楽しく会話を出来るわけでもない。 ただ毎日、疲れて帰ってくるだけの自分を、 どうしてこんなに気遣って優しくしてくれるんだろう。 「仕事、きついの?誰か嫌な人がいるとか?」 尋ねられて首を横に振る。 違う。違う。 仕事は大変だけど嫌な人なんていない。 すごく、すごく恵まれてるって自分で解ってる。 「でも追い詰められてる。何がそんなに君を追い詰めるのか教えてよ」 言われてハッとした。 ああ、そうか自分は追い詰められているんだって。 こんなにも恵まれてるのに、 それを自覚しているのにそれでも追い詰められる自分が嫌で。でも、どうしようもなくて。 「……昔の、昔のこと…なんだけど」 「うん」 「仲良くしていた友達から…気づいたら距離とられて、最初は何かしたのかなって仲直りしようと色々したんだけど…全然ダメで」 誰にも言えなかった。親にも学校の先生にも。 「近くにいると軽く押されたり、わたしを見てクスクス笑われたり…気のせいかと思うほど些細で…、 でも耐えきれなくて怒ったら、冗談なのにって…」 わたしの方が責められた。 「それは君は悪くない。相手が陰湿だ」 「……っ、ん、」 何がいけなかったのか、たくさん考えた。 でも解らなかった。 わたしは悪くない、そう思っても…またあんなことがあったら、そう思うだけで不安で。 すごくいい人達だって解っているのに、怖いと思う自分が嫌で。 仲良くしてる振りして心なんて許してない。 そんな自分が嫌いで、なのに変われなくて。 「あのさ多少の自己保身は人間なら当然だから、 そんなに自分を責めることじゃないよ」 わたしがキツく握りしめていた手をそっとほどくように広げると、手のひらに残った傷を見てキレイな顔を歪めてため息をつく。 「時間がかかるのは仕方ないよ。それだけ深く傷ついたってことでしょ。そう開きなおれればいいのに…」 涙で頬に張り付いた髪をとって、多分乱れに乱れた髪を整えてくれているのだろう彼の手の動きに、 今の自分は相当、酷い状態だろうことに気づく。 「ま、そんなことできない君だから放ってはおけないんだけど」 そう言って彼はティッシュを箱ごと渡してくれた。 今更だけど少しだけ距離をとってから鼻をとって涙を拭う。すぐに丸めたティッシュの山ができた。 「ねぇ」 まだ酷い顔だと言う自覚はあったけど、 振り返らないのも失礼なので、気持ちだけ手で顔を隠しつつ振り返る。 「その子達のこと許せないんじゃない?」 笑みを浮かべていたのにゾッとした。 迂闊に頷いちゃいけない。本能的にそう思う。 「…ちょっと違う。 わたしはあの子達のことを許せないんじゃなくて、許さない。そう決めてるんだよ。 例えばもし彼女達が反省して謝ってきたとしても受け入れない」 「──」 「でも自分からは何もしない。 何かしたらあの子達と同じになるから」 「…そっか」 彼は頷いて、さっきまでとは違う複雑な顔をした。 けれどわたしの言葉には納得してくれたみたいで良かったと思う。 「ちよっと予想以上だった」 「?」 「予想よりずっと…君のこと好きみたい」 「──」 「何でそんな驚いてるの? 好きでもなきゃこんなに君に尽くさないでしょ」 確かに? 何で自分?っていう疑問に目を瞑って考えれば納得。好きな子相手なら優しくするよね! まぁその相手がわたしってのでもう意味が解らないけど。 「俺は君が大好きだよ。だから早く俺のものになりな」 いつの間にか捕らえられていた顎を引っ張られて、 彼はわたしの唇へと噛みついた。 噛みついた上に、ぺろって…! 今ぺろって舐めたんだけど!! 「何、まだ足りなかった?」 黒い笑顔でまた距離を詰める彼に、 わたしは完全にキャパオーバーで気を失ったのだった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加