0人が本棚に入れています
本棚に追加
「おかえり~」
今日も爽やかな笑顔で迎えられる。
毎日のことだけど慣れることない気がする…。
こんなキラキラした男の子と関わることない人生だったし、これからもそうだと思ってたのに。
でも今はそんなことどうでもいい。
それくらいに仕事の後は疲れてしまう。
「今日もかなり疲れてるね。
お風呂は沸かしてあるよ、ご飯もあるから軽く食べな」
「……ありがとう」
意味もなく泣けてきて鼻を啜りながらお礼を言った。
「あのさ毎日毎日、何にそんなに疲れてるの?
話してみたら楽になるかもよ」
楽しく会話を出来るわけでもない。
ただ毎日、疲れて帰ってくるだけの自分を、
どうしてこんなに気遣って優しくしてくれるんだろう。
「仕事、きついの?誰か嫌な人がいるとか?」
尋ねられて首を横に振る。
違う。違う。
仕事は大変だけど嫌な人なんていない。
すごく、すごく恵まれてるって自分で解ってる。
「でも追い詰められてる。何がそんなに君を追い詰めるのか教えてよ」
言われてハッとした。
ああ、そうか自分は追い詰められているんだって。
こんなにも恵まれてるのに、
それを自覚しているのにそれでも追い詰められる自分が嫌で。でも、どうしようもなくて。
「……昔の、昔のこと…なんだけど」
「うん」
「仲良くしていた友達から…気づいたら距離とられて、最初は何かしたのかなって仲直りしようと色々したんだけど…全然ダメで」
誰にも言えなかった。親にも学校の先生にも。
「近くにいると軽く押されたり、わたしを見てクスクス笑われたり…気のせいかと思うほど些細で…、
でも耐えきれなくて怒ったら、冗談なのにって…」
わたしの方が責められた。
「それは君は悪くない。相手が陰湿だ」
「……っ、ん、」
何がいけなかったのか、たくさん考えた。
でも解らなかった。
わたしは悪くない、そう思っても…またあんなことがあったら、そう思うだけで不安で。
すごくいい人達だって解っているのに、怖いと思う自分が嫌で。
仲良くしてる振りして心なんて許してない。
そんな自分が嫌いで、なのに変われなくて。
「あのさ多少の自己保身は人間なら当然だから、
そんなに自分を責めることじゃないよ」
わたしがキツく握りしめていた手をそっとほどくように広げると、手のひらに残った傷を見てキレイな顔を歪めてため息をつく。
「時間がかかるのは仕方ないよ。それだけ深く傷ついたってことでしょ。そう開きなおれればいいのに…」
涙で頬に張り付いた髪をとって、多分乱れに乱れた髪を整えてくれているのだろう彼の手の動きに、
今の自分は相当、酷い状態だろうことに気づく。
「ま、そんなことできない君だから放ってはおけないんだけど」
そう言って彼はティッシュを箱ごと渡してくれた。
今更だけど少しだけ距離をとってから鼻をとって涙を拭う。すぐに丸めたティッシュの山ができた。
「ねぇ」
まだ酷い顔だと言う自覚はあったけど、
振り返らないのも失礼なので、気持ちだけ手で顔を隠しつつ振り返る。
「その子達のこと許せないんじゃない?」
笑みを浮かべていたのにゾッとした。
迂闊に頷いちゃいけない。本能的にそう思う。
「…ちょっと違う。
わたしはあの子達のことを許せないんじゃなくて、許さない。そう決めてるんだよ。
例えばもし彼女達が反省して謝ってきたとしても受け入れない」
「──」
「でも自分からは何もしない。
何かしたらあの子達と同じになるから」
「…そっか」
彼は頷いて、さっきまでとは違う複雑な顔をした。
けれどわたしの言葉には納得してくれたみたいで良かったと思う。
「ちよっと予想以上だった」
「?」
「予想よりずっと…君のこと好きみたい」
「──」
「何でそんな驚いてるの?
好きでもなきゃこんなに君に尽くさないでしょ」
確かに?
何で自分?っていう疑問に目を瞑って考えれば納得。好きな子相手なら優しくするよね!
まぁその相手がわたしってのでもう意味が解らないけど。
「俺は君が大好きだよ。だから早く俺のものになりな」
いつの間にか捕らえられていた顎を引っ張られて、
彼はわたしの唇へと噛みついた。
噛みついた上に、ぺろって…!
今ぺろって舐めたんだけど!!
「何、まだ足りなかった?」
黒い笑顔でまた距離を詰める彼に、
わたしは完全にキャパオーバーで気を失ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!