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オレンジ髪の子はちょっと腹黒
「やだもー」
「あんまり笑わせないでよ~」
休憩時間には先輩後輩集まって皆でランチをする。
「さて、そろそろ仕事に戻らないとね」
「休憩時間は過ぎるのが早いですよね」
先輩の言葉に皆、立ち上がって自分の席へと戻った。
後輩も出来て仕事の内容も難しいのを任されるようになってきた。
仕事も人間関係も順調。雰囲気もすごくいい職場だと思うし不満なんてない。
「先輩、仕事終わったら少し話を聞いて欲しいんですけど大丈夫ですか?」
「うん、いいよ。じゃあ早めに終わらせられるように頑張ろうか!」
「はい!ありがとうございます。
わたしこの職場に入って良かったです。
先輩、皆優しいし!」
笑顔でそんなことを言ってくれる後輩は正直、本当に可愛い。
なんかキラキラしてるよね。
自分だってつい数年前には学生やってたはずなのに、
纏う空気が違う気がする…。
後輩のちょっとした愚痴と彼氏のノロケに付き合って帰宅と同時にベッドへと倒れこんだ。
あー疲れた…今日も1日中、笑顔で顔面の筋肉がひきつっている気がする。
週末は絶対に部屋から出ない。引きこもろう。
そう決めてとりあえずお風呂を沸かさないと、とベッドから起き上る。その時、キッチンにオレンジみたいな明るい髪をした男の子が立っているのに気づいて固まった。
「一応、はじめましてかな。
そしてこれからよろしくね」
キラキラっと擬音が聞こえるような笑顔を向けられる。生きてきた年齢=彼氏いない歴の自分には眩しすぎて本気で召されるかと思った。
「だ、誰ー?!」
思わず声も裏返ったけどそんなの気にしてる場合じゃない。
手近にあったクッションを抱えてなるべく、その男の子から距離をとろうとベッドの奥に逃げる。
まぁ1Kの部屋じゃたいして変わらないけどね…。
「俺はオレンジ。君がいつも買ってきてくれるだろ?」
そう言って男の子はかごに盛ってあったオレンジの1つを手に取った。
何か目の前でグラビア撮影を見させられているような色気だ。
「けど君は本当にオレンジが好きだね。
果物だけじゃなくアロマオイルもオレンジだし」
「…花の香料はなんか苦手で…」
「うん、知ってる」
何だろうニコニコ笑顔なのに信用できない感じ。
というか買ってあったオレンジってどゆこと?
ヤバい人なの?!
「ふふふ、さっきから小刻みに震えてるんだけど?」
怖いんだよ、あなたが!
「俺が怖い?別に君に危害は加えない。
まぁこれから一緒にいるんだし、少しは…ね」
「何なのその間!というか何で色々決定してんの??誰もOKしてないんですけど!」
怖くても追い詰められると牙を剥くってこんな感じか。まさか自分で体現するとは…。
「俺が嫌?なら姿を消すこともできるけど…」
「えっ」
そう言って男の子は目の前から消えてしまう。
「ほらこれなら見えないだろ?」
「待って!声は聞こえるんだけど!」
「そりゃそうだよ。全部、自分の希望が通るわけないだろう。姿無しで話すか姿ありで話すかだよ」
「姿無しで話すとかただひたすら怖いだけじゃん!」
「じゃあ姿表していいね」
再び姿表したと思ったらなんか近くにいるし!
何なのこれ~泣きたい。
一生懸命、生きてるつもりなんだけど何か悪いことしたかな…。
「あのさ本当に俺は君の為に出てきたわけで、君を怖がらせるつもりはないからね。ちょっと面白くてからかってしまったけど」
本当に泣きそうになってしまったのに気づいたせいか男の子はごめんね、と頭を撫でてきた。
「とりあえずお風呂は用意してあるから入ってきなよ」
「えっ」
「疲れて帰って来るのは解ってたからね。
ゆっくり入っておいで」
疲れて帰ってきてからのお風呂の用意は本当にきついのだ。でもお風呂には浸かってのんびりしたい。
そんなせめぎあいで時々シャワーで終わらせることもあって…。
どうしよう。今めっちゃ好い人って思ってしまった。
「ああ、そうだ。お風呂にはしっかり鍵かけてね、
襲われたくなかったら」
顎を掴んできた男の子の手を叩いてお風呂場に入ると中から鍵をかけてその場にへたりこんだ。
顎くいっとか漫画とドラマ以外で初めて見たし、
実際にやられる側になるとダメージ半端じゃない。
混乱する頭を落ち着かせる為にもお風呂に入ろう。
浸かったお湯にはお気に入りのオレンジのアロマオイルが足らしてあって、いつもならリラックス出来るのに今日は何だか落ちつかなかった。
ついさっきあの男の子から距離を詰められた時に香った匂いと同じだったから。
突然、現れたオレンジを名乗る男の子はこの日からこの部屋に住み着いてしまう。
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