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「こんばんは」
最近、毎日のように会うのは数日前に出会った男の人です。年はあまり変わらないように見えますが学生とも社会人とも思えなくて何だか不思議な人です。
あまり話しかけては迷惑かな、と遠慮すると、
そうでもないようで… でもお話していてもそんなに楽しそうにはしてるようには見えなくて。
何だかよく解りませんが、この人はわたしの話を大体は黙って聞いて時々、厳しい意見を言ってくれます。
最近では家の近くまで送ってくれて、
でもそれをわたしが解らないくらいにさりげなくて、
少し言葉は厳しいけど、とっても優しい人なんだと思っています。
わたしは昔からこうだから正直、異性の人とまともに話したこともあまりないし…少女漫画とかすごく好きで憧れないって言ったら嘘になるけど自分にはとても無理だともわかっていて…男の人と2人で歩くことも初めてで…だからすごくドキドキしているんです。
「あのさ」
「はい!なんでしょうか?!」
一緒に歩いていたのに1人で考えにふけるなんて失礼なことをしてしまったことに気づいて、わたしは慌てて返事をしました。
「前、見て歩かないと…」
「え…」
話をしながらも何も考えずに足を進めてしまったせいで歩道が終わっていることに気づかずに街路樹に突撃してしまいました。
バランスを崩して顔から倒れそうになったのを抱き止められ、
恐怖から一転、驚きとは別な意味でドキドキしてしまいます。
「どんだけボーッとしてんの。
道歩くくらい子供でも出来るよ」
「すみません…ご迷惑をおかけして…」
真っ赤になってしまった顔を見られないようにお礼と一緒に深く頭を下げます。
こんな顔を見られるわけにはいきません…。
何とか落ち着こうとしていると、わたしの名前を呼ばれ顔を上げると、そこにはわたしの唯一の友人…親友と呼べる子が立っていました。
「やっぱり!この駅、最寄りだもんね!
久しぶり~」
親友はわたしなんかとは違って美人さんで、
いつもきちんとしている子です。
彼女の服装からどうやら駅前の公園に運動をしにきているのが伺えました。
「お久しぶりです!この公園でいつも運動をしてるんですか?」
「あ…ううん、色んな所に行ってるんだ。
今日はたまたま」
珍しく彼女が言葉を詰まらせたましたが、
わたしはあまり聡い方ではないので気づきませんでした。
けれど次の瞬間、後ろから走ってきた背の高い男性が彼女に抱きついてきて、わたしはびっくりしました。
「1人で行かないでって、言ってるのに…!」
「だからってイキナリ抱きつかないで!
驚くでしょっ」
彼女もスラッとした高めの身長もあって、絵になる2人を目の当たりにした気がします。
色んな人から告白されても断ってばかりだった彼女にまさか彼氏さんが出来てたなんて知りませんでした。
わたしがキラキラした目で見ていることに気づいたのか彼女は顔を赤くして違うから!と必死に言いましたがとても違うように見えなくて、彼氏さんの方だってどう見ても彼女のことが好きなように見えるので彼女の言葉に頷きつつも親友の楽しそうな姿にわたしはすごく嬉しくなりました。
とりあえずその場ではまたゆっくりお話しましょう、と約束して別れます。
「人の幸せがそんなに嬉しい?」
「はい!誰だって不幸より幸せなほうがいいじゃないですか。でも今回は更に特別です!
だって彼女はわたしの唯一の友達で…親友で…、
憧れの人だから」
「ふーん、そんなもん?」
「そうですよ!だって好きな人には幸せでいて欲しいでしょう?その人が笑うだけですごく嬉しくて楽しくて…だから好きな人なんだって思うんです!」
彼女のことが嬉しくてテンション上がりすぎたせいか熱弁してしまってから、わたしは気づいて恥ずかしくなってしまいます。
勢いのあまり顔を近づけ過ぎです!
すごく整った顔立ちで何だかやっぱりレモンのいい香りがします。
あまりのことに固まって動けずにいるわたしの頬に彼は手を伸ばして、そして引っ張りました。
あまり痛くはないように加減はされていますが、
元からあれな顔が確実に変顔になっています!
頬を引っ張られ上手く話せないながらも必死にはなしてくださいと訴えて見るものの彼はわかっているのかいないのか。クスクス笑いながら手を離してくれません。
「……やだな、あんたみたいなの好きとか認めたくなかったんだけど」
彼はため息をついて、わたしの頬から手を離すと、
自分の顔を隠しました。
手だけでは隠しきれない顔は間違いなく赤く染まっていて…
「……まさかわたしのこと好き…なんですか?」
絶対に自分から聞くことなんてないだろうセリフをついうっかり口にしてしまい、けれどそれを後悔するより先に彼は、
「改めて言うとか…ありえないんだけど」
更に顔を赤くしてそう言いました。
なんでしょう…男の人に可愛いなんて思ってしまうのは初めてです。
でも男の人に可愛いは褒め言葉ではないと聞いたことがあるので口には出しません。
「ニヤニヤしてる…」
「えっ、すみません!」
「バカにしてる?」
「とんでもないです!その…嬉しく、て…」
どう答えるのがいいのか初めてのことでわかりません…。改めて好きな人に気持ちを伝えるというのは大変なことなんですね…。
「僕のこと、好き? 」
「──はい!」
それははっきりと思えるので頷いたら、
彼は今まで見たことのない優しい表情になって、
それは一瞬だったけれど差し出された手を握り返して
、その日は初めて手を繋いで自宅まで送ってくれました。まだわたしは彼のことを何も知らないけど、これから少しずつ知っていけたらいいなって…そう思いました。
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