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レモン男子は素直じゃない
わたしはよく人とはテンポが違うといわれます。
わたし自身それは感じていて自分なりに頑張っているのですが…なかなか上手くいきません。
友達作りも仕事も大変なことが多いけれど、
それでもわたしなりに必死にやっていくしかない。
そう思っています。
挫けそうになることも多いですけど…。
「これ、やっといて明日までだから」
「ごめーん!今日はどうしても外せない用事があるの!だから残りお願いね」
「あ、あの…わたし1人では…」
「「よろしく~」」
渡された仕事は本当に山のようで、わたしは途方にくれました。
とにかく、やるしかないと必死になったものの当然、業務時間内に終わるわけもなく…。
「おーい、いつまで残ってるの?」
「す、すみません…明日までの資料がまだ…」
「え?!それまだ出来てないのかよ、マジか…」
明日の始業までに揃えておかないといけない、ということでまだ残っていた他の社員の人達にも手伝って頂いて何とか終電前に帰ることが出来ましたが、
「君ももう新人じゃないんだから、仕事の段取りくらい考えてやってくれないと困るよ」
「はい…申し訳ありませんでした」
他の人達も帰りが大分、遅くなってしまい、
わたしはただ謝るしか出来ませんでした。
帰り道、まだ多少の人目があることは解りつつもわたしは零れる涙を堪えきれずに泣きながら歩きました。
どんな風に振る舞えば良かったのかわかりません。
無茶な頼みを断りきれない自分が悪い、
そうは思ってもわたし以外の人だったらそつなくこなしたのではないか。
そう思うと悲しくてたまりません。
その時、泣きながら歩いていたせいか前方から歩いてきた男の人にぶつかってしまい、わたしは慌てて謝ります。
「ご、ごめんなさい!わたしの注意不足で…」
「今ぶつかったのは僕のほうだけど?」
「えっ…」
「自分が悪くないことまで謝るとか物好き」
元々泣いて感情が高ぶっていたのもあるのか、
普段のわたしなら考えられないくらいに彼の言葉に腹が立ってわたしは気づけば言い返していました。
「なら何故、あなたは謝らないんですか!
お互いに注意不足だったからぶつかったんです。
お互いに謝っておわり、でいいじゃないですか」
男の人はわたしの言葉を黙って聞くと、
「ごめん」と言いました。
「ちゃんと言い返せるならそれでいいよ」
男の人の言葉の意味を掴めずにいると、
すっと男の人は手を伸ばしてきて、指先がわたしに触れようとした瞬間、ハッとしたようにその手を背後へと隠してしまいました。
何がしたかったんでしょうか?
「…絶対に認めない…」
「え?」
「君が、僕の……」
男の人は何かを呟いたものの、わたしには聞き取れないまま、その場から走り去ってしまいました。
ふわりと香ったのは今の男の人の残り香なのか、
爽やかなレモンの匂いにわたしは何となく元気を貰えた気がしたのです。
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