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青リンゴ&赤リンゴは双子である
あたしの実家はリンゴを作っている。
子どもの頃は手伝いをするのが当然で、
長女のあたしが結婚して家業継ぐのも当然のように思われていて、それが堪らなく嫌で大学進学を理由に上京したのだ。
在学中に趣味で書いていた小説がちょっとした賞をとってそのまま作家デビュー出来たのは本当に運が良かったと思う。その時にあたしはようやく、そうして当然の枠の中から抜け出せたのだから。
大学を卒業してようやく作家業に専念できるのが嬉しくて、しばらくは本当に書くことだけに集中した。
本を書くことが楽しくて嬉しくて、
そのおかげでそれなりに蓄えることもできた。
けれどその反動か、今現在、あたしは本どころか一文も書けなくなっていた。
息抜きも必要だと編集者の人に言われ、なるべく外に出るようにしてみたけれど、びっくりするくらい何にも興味が湧かなかった。
そんな自分が嫌で早々に帰宅して、
リビングの床に座り込んでいる。
気力も何も湧かなかった。
このまま書けなくなったら、あたしはどうなるんだろう。多少の蓄えがあっても老後まで働かずに生きていくなんてとても無理だ。
今更、就活?学生からそのまま作家になった人間にどんな働き口があるんだろうか。
…1人暮らしにはちょっと豪華なこの部屋も引っ越しした方がいいかもしれない。
生活が本当に困窮してしまうより先に動くべきだろう。
不動産にでも行って物件を見てみようかと思ったとき、内線を知らせるチャイムが鳴った。
内線をかけてきたのは管理人さんで、
あたし宛に大きな荷物が届いたので取りに来て欲しいということだった。
普通なら宅配ボックスに管理人さんが振り分けてくれるのだが、どうやらボックスには入らないし重いしでかなり困らせてしまったのを申し訳なく思う。
荷物は実家かららしいので絶対にリンゴだ。
勝手に家業を継ぐと思われていたのには不満があったけどリンゴは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
取りに行った段ボールの大きさには少し引いたけど、
台車も業務用のエレベーターも使っていいと言って貰えたので、たくさんのリンゴをどうしようか考えてウキウキした。
これだけあるならジュースもいけるし、久しぶりにアップルパイとか作ってみてもいいかも。
部屋について早速リンゴを確認しようと大きな段ボールを開けてあたしは固まった。
「あ、ようやく開けてくれた!」
「…身体痛い…」
何故か段ボールを開けたら2人の青年が入ってました?
「おーい、いきなり寝ちゃった?
起きて起きて!」
あたしの顔をペチペチ叩くのは笑顔全開のよくしゃべる感じの子?で、その隣にいるのは真逆な感情を見せない顔とボソッと呟いたきり黙っている人だ。
この2人、雰囲気が違うから解らなかったけど顔立ちは同じなんだと気づく。
というかこんな美形を間近で拝めることなかったから、つい凝視してしまったけどそうじゃない。
こんな作家もびっくりの出会いがあってたまるか。
「あ、起きた?じゃあ自己紹介!
俺は赤リンゴです、双子の弟だよ!」
「青リンゴ、兄」
2人が入っていた段ボールの中には赤リンゴと青リンゴ両方が詰まっている。
「俺たちは君のこと知ってるけど君は初めてだもんね。これからよろしく!仲良くしようね~」
「よろしく頼む」
はいはい。明るく元気なのが双子の弟で赤リンゴ。
青リンゴの兄は無口な男前。
うんうん。よくあるよねそういう設定。
「あははは、ヤッバイな~あたし…
ちょっと疲れてるのかな?」
書けないのは辛いし苦しいし現実として切実だけど、こんな幻見るようになったらオシマイだよね!
「えっ疲れてるの?大丈夫??」
「休んだ方がいい」
わ~心配までしてくれる。なんて優しい幻だろう。
「わっ!」
「危ない」
「?!」
弟がバランスを崩して転倒しそうになったものの、
兄がしっかりと腕を回してガード。
倒れて段ボールは崩壊、リビングにはリンゴが転がる大惨事だけど、あたしはそんなこと全然、気にしていなかった。
「いたた…」
「大丈夫か?」
怪我をしないように抱き抱えた兄が弟へと尋ねるのに、弟は庇われたのが恥ずかしいのか悔しそうにしつつ頷いて……兄が頭をポン、と。
「散らかしてごめんね!すぐに片付けるから…」
「…どうかしたか?」
何だろうこれ…。
腸…じゃなくてでもこう…芯からこう揺さぶられるこの感じ…よく解らないけど、これだけは解る。
書ける!今ならあたしは書ける!!
そのまま仕事部屋になっている部屋にはいって、
スリープモードのパソコンを動かすと一心不乱にあたしはキーボードを打ち続けたのだった。
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