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一作丸ごと仕上げるなんていつぶりだろうか。
あたしは笑いたくなるのを堪えながらエンターキーをおす。細かい見直しは明日以降に回そう。
そうして身体を伸ばそうとして強張った身体に痛みが走ってその場に踞る。
普段から締め切ったままのカーテンからは変わらず日の光が差し込んでいて…そんなに時間は経っていないのかと思ったがそんなわけがない。
だって本一冊分を書き上げたのだ。
何よりこの身体の強張りが証拠だろう。
リビングに出て時計を確認する。
おおよそだけど丸一日が経っていた。
ですよね…。
動ける今のうちに何かしら食べて、
シャワーでも浴びて寝ようかな。
起きたら担当さんに連絡いれなきゃね。
そんなこと考えながらキッチンに向かうと、
「あーん」
「ん」
対面キッチンのカウンター越しに兄へと口を開けて待つ弟と乞われるままにその口へと食べ物をいれてあげる兄がいた。
「あ、もう仕事おわった?」
「1日中、仕事してただろ。身体は大丈夫か?」
あたしを見つけると同時に笑顔を向けてくる弟、と珍しく長く話した兄。
一回スイッチ入ると周り見えなくなってしまうのはあたしの悪い癖だ。
それくらいには心配をかけたのだろう。
夢でも幻でもなかったかっていうツッコミは今更なので、もうしないことにしよう。
この2人のお陰でまだまだ作家として生きていけそうだしね。ふふ。
「一段落、かな。えっといきなりごめんね」
「ううん、作家さんが大変な仕事っていうのは聞いてたしね!予想以上に大変そうでびっくりしたけど」
「とりあえず何か軽くでも食べた方がいい」
そう言って出されたのはリンゴのリゾットだった。
さっき弟が食べてたのもこれだな。
リンゴの甘い香りが疲れた身体に染み渡る感じ?
小さい頃の病気の時の食事がこれだったのだ。
さすがリンゴ農家ってね。
まだ温かいリゾットを味わって食べる。
食後にお茶まで出されて何これ至れり尽くせりってやつ?
ほどよくお腹が満たされたせいか急激に眠気が襲ってきた。
「ん…おふろ…」
シャワーくらい浴びたくて何とか堪えようとするけど、
「寝ぼけながら入るのは危ないよ」
「今はゆっくり休め」
2人の言葉に僅かに抗おうとしていた気持ちもかき消えてしまう。
座ったままスヤスヤと寝入ってしまったあたしを
兄が横抱きにして寝室に連れていったこと、
眠るあたしの両隣で2人も眠って起きたときに叫ぶことも今は何も知らないままあたしはぐっすりと眠ったのだった。
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