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リンゴ男子×2インタビューされる
「さて、じゃあ幾つか質問していっていい?」
「うん、いいよ!」
「ああ」
リンゴ兄弟をテーブルの向かいに座らせて、
あたしはノートとペンを用意する。
せっかくこんなファンタジーな存在が目の前にいるんだから聞けるとこは聞いておかないとね!
「それじゃまずはー」
2人に聞いた話では2人以外にもリンゴ男子がいたことあるし他のフルーツにもいるらしい。
ただ実体化するのは本当に稀なので数えるくらいの存在しかいないらしい。
確かにそんなこと頻繁にあったら世の中もっと混乱してるわ。
「そういう子達って交流あるの?」
「あると思うよ。俺たちはまだこっち出てきたばっかで会ったことないけど」
「そのうち挨拶はしないとな」
「ほぉ…」
何ならその子達にも話を聞きたいけどな…。
とりあえず今はこの子達の話を聞こう。
「でも普通に答えてくれてるし今更だけど大丈夫なの?こういうのって秘密なんじゃない?普通」
「うーん、部外者には話さないけど一緒に暮らす当事者には話さないとじゃない?」
「あ、じゃあこれは小説とかにしたらマズいの?」
「いや…したところで事実だとは思わないだろう。
解る人間がいたところで自分からバラすとは思えないしな」
確かにその通りか。
今のご時世、逆にファンタジー的話も混ざりやすいのかもしれないと思った。
殆どの人がある程度、免疫があるし、
手品は勿論、科学も進歩して不思議現象が起きたとしても何かしら理由があって起きてるって考えるはず。
「そう言えばあたしのこと知ってるって言ってたけど、ちなみにいつ頃から?」
「うーんと…君がリンゴ畑に出入りして」
「商品のリンゴを齧って叱られたのは見ていた記憶がある」
「そんな小さい頃の話まで!?」
恥ずかしい。親戚集まって自分が覚えてない頃の失敗談をされるのと同じ感じだ。
「まぁその頃はまだ実体化は全然してなかったしね」
「そう言えば…あたし上京してから地元には帰ってないし何でまた実体化したの?」
あたしがそう言うと双子は顔を見合わせて不満気に眉を寄せた。
「だからだよ!全然、会えないんだもん!」
「お前がいたら一緒に移動できたが…」
「すぐに戻って来るって思ってたから待ってるつもりだったのに」
「えぇぇ…ご、ごめんなさい…」
まさか家族以外にもあたしの帰りを待ってる存在がいるとは思いもしなかった…。
通常、実体化してしまえば単身での移動も可能だけど、あたしが戻らない以上、実体化も出来なくて困ってたところに思いついたのがリンゴとして宅配されることだったらしい。
「今回は収穫寸前に台風きちゃって、かなり実が傷ついて売り物にはならなくなっちゃったから…」
宅配された大量のリンゴはその一部だったらしい。
だから普段よりもかなり量が多かったのか。
「そうなの?手紙にはそんなこと一言も…」
「お前が1人で作家としてやっていること、家族は応援しているからな」
反対されるのが当然だと思ったし、
作家デビューしてからはずっと書いていて、
帰ることもなかった。
ここ数年で手紙のやり取りぐらいはするようになったけれど…そっか…応援してくれてるのか…。
溢れそうになった涙を拭ってあたしは、とりあえずインタビュー用のノートを閉じた。
まだまだ聞きたいことはあるけどそこは、おいおい聞いていこう。
「あー何か疲れたし外にお茶でもしに行く?
そのまま夜も外食ですませてもいいし…」
あたしが伸びをして立ち上がろうとするのに弟は抱きついてきて、そのままあたしの膝枕でゴロゴロ言い始める(幻聴)
「ちょっと…そういうことは兄貴にしてもらいなさいよ…」
「やだ!だって固いもん!」
そう言って弟はあたしの膝にすりすり頬を寄せる。
これ完全なセクハラじゃない?
端から見たら年下の居候、膝に乗せてる家主の女って完全にアウト!
「も~外でこんなことしたら二度と一緒にお出かけ出来ないからね」
「はーい」
ため息ついて柔らかい弟の髪撫でていると、
本当にペットを飼っている気分で癒される。
ふと兄は何をしているのかと顔を上げれば、
向かいから隣に移動してきていて驚いた。
兄は基本的に無口なせいか時々、無言で見つめてくるの居心地、悪いから止めて欲しい…。
何かしら話でもあるのかと尋ねようとしたら、
今度は兄から抱きしめられた。
ほどよくしまった胸元は意外なほどに柔らかい。
良質な筋肉は柔らかいって本当だったんだ。
まぁ骨があれだから弟が固いって文句いうのも事実なんだろうけど…。
というかいつ膝枕なんかしてたんだろう?
あたし見てないよ!今夜にでもして見せて貰わないとだね。
こう関係ないことを考えるのも一種の現実逃避だ。
じゃないとこんなイケメン双子に抱きつかれてるなんて受け入れられないから。
兄はあたしを抱きしめたまま慰めるみたいに、
あたしの頭を優しく撫でる。
せっかくしんみりしないように気持ち切り替えようとしたのに台無しだ。
声もなくただ涙を溢れさせるあたしを双子はずっと抱きしめてくれていた。
今は大分、落ち着いて書けているし、
少しだけ里帰りしてもいいかもしれない。
泣くだけ泣いてスッキリしたらそう思えた。
「……でも待って…」
あたしが里帰りする時、この子達はどうするんだろう?
「確認するけど…あたしの家族は君達のこと知らないよね?」
「そうだね…俺達が実体化したのこっち来てからだし!」
「機会があるならちゃんと挨拶しないとな」
「ね!」
……挨拶って?待ってこれ、あたしが帰るっていったら絶対についてくるやつだ。
上京して男の子2人連れて帰省したら親、倒れるんじゃない?
……いや母親や妹達は大興奮するかもだけど、どっちにしろ大変なことになる。
とりあえず帰省はまたしばらく見送って、
来月の仕送りは少し多めにしておこうとあたしは決める。
しかし何でまたあたしのことをこんなに好いてくれているのか不思議だけど、さすがにそれは聞けない。
それで真剣に答えられてもあたし死ぬし。
というか自意識過剰かも知れないけど、あたしが死にそうなことしか、この子ら言わなさそうだ。
きっと聞かない方がいいやつだ、間違いなく。
膝と肩にずっしりとした重みを感じたかと思えば、
2人してあたしにくっついて寝息をたてていた。
えっ可愛い!でも待って、さすがに2人は重い!
多分長くは持たないけど、あたしは限界まで耐えることにする。可愛いすぎて起こすの無理…。
予想以上に限界は早くて数分後には2人を床に落としてしまうんだけど…。
今はただ可愛さに双子の頭を撫で回して堪能していた。
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