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リンゴ男子は福を招く?
拝啓
故郷の両親と妹達へ
何だかんだと残暑が長引いてますが、ようやく秋らしくなってきましたね。
そちらはきっともう少し肌寒いかと思います。
季節の変わり目は体調を崩しやすいので気をつけて下さい。
私の仕事は順調です。
というか最近、やたらと依頼が多くなって初めは嬉しくて何でも引き受けていたのですが、
スケジュールがままならなくなり選ばせて頂くことになったりしてるんです。
すごいですよね(他人事感)
まぁでも初めの頃に考えなしに引き受けてしまったせいで私は現在、死にそうです。
まだしばらく故郷に帰ることは出来そうにありません。家族、仲良く健やかに過ごして下さい。
敬具
なんて心の中で家族に出す手紙を認めてみる。
まぁこんなこと書いたら流石に家族が突撃してきそうなので絶対に書かないけれど。
「うっ…う、書いても書いても終わらない…」
咽び泣きながらあたしは必死に手を動かした。
一度、手を止めてしまえばもう動かないと解っているからだと思う。
「これ…面白いのかな…何かもう解らなくなってきた…」
仕事を貰える。作家として書く場所を与えられるなんて恵まれていると思う。
なのにどれだけ書いても不安は無くならない。
本当にこれでいいのか。
もっと面白くなるんじゃないか。
例えばあたし以外の人なら、もっと─、
なんて考え出すと止まらなくなるから、
必死に今、書いている話だけに集中する。
そうしないと……何にも書けなくなる、
あたしはそれが何よりも怖いから。
ずびっと鼻水を啜って涙を拭ったのに、
何故か鼻水を啜る音が止まらない。
季節外れの怪談?むしろ私の身体の異常の方がしっくりくるな、と思いつつ音がする背後を振り返れば、
そこには私が先に印刷しておいた原稿を手に泣きじゃくるリンゴ男子×2がいた。
「……何してんの」
思わず冷静に突っ込んだ。
「…すま、ない…」
お兄さん、顔を隠しているけど号泣してるよね?
耳、赤くなってるじゃない。
誤魔化すの下手すぎて可愛いから今度、食洗機を購入しちゃうよ。
「休憩したらって声かけにきたんだけどっ…」
泣きながらもちゃんとあたしの突っ込みに答える弟、良い子。あと涙と鼻水で原稿を汚さないように掲げて読んでるの可愛いすぎるから後でお小遣いあげよう。
「邪魔してすまなかった…」
「うん…俺、本って読んだことなかったけど、
すごく面白いんだね!
待ってる人達の気持ち、わかるな」
「そうだな、とりあえず…俺達が出来ることは何でもするから」
「いつでも声かけてね」
そう言って2人はあたしの頬にそれぞれキスをすると部屋から出ていった。
冷めてしまった、ほうじ茶ラテを置いて。
ほうじ茶ラテは最近のあたしのお気に入りだ。
多少、肌寒いときに熱々で飲むのが特に好きなんだけど今日はすっかり冷めてしまっているのに、
泣けるくらいに美味しかった。
まだまだ先は見えないけど、そうだね。
やらなきゃ、ね。
あたしの書く話をたくさんの人が待っていてくれる。
いつか待っていてくれるのがあの2人だけになっても、生活が出来なくなったとしても書く意味はきっとある。
頑張って仕事を終わらせたらあたしにじゃなくお互いに、ほっぺにチューして貰おうかな。
あーすごいやる気でできた!
…それにしても…あの2人が来てからスランプは抜けたし、やたらと仕事も増えたし…もしかしてあの2人、招き猫ならぬ招きリンゴ?!
突拍子もない思いつきだったけど何だかとても真実味がある気がした。
……そうだね。大切にしないとだね。
(まぁほっぺにチューはして貰うけど!)
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