184人が本棚に入れています
本棚に追加
はじまりの強風
その日は、どこか普段とは違っていた。
どこがどう違うのかと問われても答えることは出来ないが何故か違和感があった。
「羽唯、今日衣装持ち帰りで作ってこれる?」
友達の小梅がヒラヒラとした水色のワンピースドレスを持ちながら私に近付くと、首を傾げながら聞いてきた。
ガサゴソと鞄の中の持ち物を見ると、衣装を入れるスペースは充分にある。
あ、でも部活の出し物のレシピも持って帰らないとか…
ま、いいか。
『大丈夫〜でも荷物多くなるわぁぁ』
私はどこにでもいるような高校2年生
一ノ瀬羽唯。
自分で言うのは何だが手先が器用なので、こうして文化祭が近づいたりすると劇の衣装作りなどをよく頼まれる。
小梅が帰った後、私は1人で自分が納得する所まで衣装を作っていた。
ちくちく。ちくちく。と針で布を縫う音と時計の針が動く音が合わさって心地がいい。
どのくらいの間作っていたのか、集中しすぎてわからなくなっていた時自分の携帯が鳴った。慌てて出るとそれはお母さんで
「羽唯!今どこ!?何時だと思ってるの!」
と怒鳴り声が耳に響いた。
『え?学校だけど…』
そういえば今何時だ。ぱっと教室の時計を見ると針は19時10分を指していた。
(あっちゃー…熱中しすぎた…)
ごめん今から帰るとお母さんに伝え、電話を素早く切ると衣装を綺麗に畳んで鞄の中に入れて教室を飛び出た。
昇降口まで行っても人影がない。うーん。先生達も職員会議かな?
かちゃっと下駄箱を開けて履いていた上履きと入っていたローファーを入れ替える。
走って外に出るともう薄暗くなっていた。
夏も終わりに差し掛かり、少し肌寒い。明日からは長袖のシャツにしよう。
そんな事考えながら電車に乗るため駅に向かっているとびゅうっと強い風が吹いた。
今日ってこんな風強かったっけ…?
風のせいで乱れる前髪を整えてもびゅうびゅうと風は吹き続ける。
整えるのが無駄だと感じた私はもう何もせずにただ走り続けた。
びゅうびゅうと風は私にまとわりつくように吹く。
荷物が多くて重いのに風まで私に負担をかけようとするのか。今日はついてない。
…いやついてないというか、今日はなんだか変だ。
1度立ち止まり乱れた呼吸を整えながら考えていると、一際強い風が吹いた。
『うわぁっ!』
風の衝撃で体が後ろに倒れる。
荷物が重いせいか上手く体制を直せずに目の前に藍色の空が広がる。
転ぶ_______
そう思って目を固く閉じても、体に衝撃が来ることは無かった。
最初のコメントを投稿しよう!