鏡面は清かな月を映す

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「……あいつがいなくなって、3年か」  初老の男性が窓際に置かれた写真をみながら、さみしそうにつぶやいた。 「ええ……でも、きっと帰ってきますよ」  妻らしき彼よりもう少し若い女性が疲れたように応える。 「だけど、かわいがっていたサヤカを家に残して、いなくなったりするか?」 「……まるで妹のようにかわいがってましたよね、白猫のサヤちゃん。一人暮らしをすると決めたときも、サヤちゃんだけは連れて行くって……」 「清良の部屋でサヤカが死んでるのを見たときは、心臓が止まるかと思った」 「あなたもサヤちゃんのこと、かわいがってましたよね……」 「娘みたいなもんだからな……サヤカのおかげで、多少は清良との関係もましになったし」 「帰ってきてくれませんかね、二人とも……」 「ああ……帰ってこなくても、せめて生きて幸せになっていてほしいな……」  差し込む月の光に猫の鳴き声を聞いたような気がして、老夫婦はそっと顔を見合わせた。
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