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ハロワでの仕事探しというルーティンワークを終えた後、いつも通りに池袋の繁華街へと立ち寄った。 最近は乗換駅としてしか使っていないが、大学時代には毎日のようにオタクな友達とつるんでアニメショップとかゲーセンとかに行っていた。 馴染みの深い街だ。 サンシャイン通りからわずかに逸れた近くのビルのエレベーターに乗る。 お金もないくせに、昔よく行った喫茶店へと足が向いていた。 低層階の店と違って、お客の少ないこの店はコーヒー一杯で友達と何時間も粘れるのが魅力だった。 沢山の若い子たちが行き交うのを見下ろせる窓のそばに陣取る。 運ばれてきたLサイズのアイスコーヒーにミルクとシロップを入れ。 ちびちび飲みながら、今日プリントしてきた求人広告を呼んだ。 「ロクなのがなーい」 ものの1分も経たずに紙の束を投げ出す。 求人広告は慣れると、10秒以内にヤバい物件を見分けるスキルがつく。 前にも見たことある奴。ほぼアウト。 人が辞めるから年がら年中募集してるのよ。 「アットホームな職場です」 とんでもないパワーワード。なあなあで雑用何でも押し付けてくるし、殆どはちゃんとした就業規則もない零細企業の言葉遊び。 物は言いようだなぁ。 そんなことを思いながら、ぼんやりと窓の下を見つめると、とあることに気づいた。 「………?」 歩行者天国状態の大通り。 その向こう側で、1人の女の子がこちらを見ていた。 小学校中学年くらいのその子はまっすぐこちらを見据えており、こちらに向かって大きく手を振る。 ????? 何なの? 誰にアピールしてるの? 半信半疑で控えめに手を振り返すと、女の子は嬉しそうに飛び跳ねた。 え?もしかしてわたしなの。 何の用なの? 今度は、こちらに来いというように手招きした。 人混みの中であちこち人にぶつかりそうになりながら、女の子は必死に手を振り続けている。 戸惑っているうちに大通りに自動車が入り込んできた。 この街を歩き慣れているであろう周囲の通行人が足早に避けていくのに、その子はわたしを見つめたまま動こうとしなかった。 まるで、こちらが動かないと自分も動かないとでも決めたかのように。 「え、ちょ。何なのよ!」 小さく叫ぶと、残っていたアイスコーヒーの残りを一気に飲み干し、エレベーターに駆け込む。 会計は先に済ませているタイプの店でよかった。 一階のエントランスから飛び出すと、既に車は通り過ぎた後で。 ようやく降りてきたわたしから逃げ出すかのように、女の子は向かい側のハンズ方面へと走り出した。 そしてもう一度振り向くとまたわたしの方を見る。 人混みの中で少し距離が離れていたけど、その唇が大きく動いたのは何故か見えた。 『わたしを見つけて』 それだけ告げると、女の子はすぐに人混みの中に消えていった。
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