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またも大通りに入ってきた乗用車をやり過ごし、ダッシュでその姿が向かった先を追う。
---いない?
近くにはゲーセンとかユ●クロとか、子どもでも気軽に逃げ込みそうな店は沢山あった。
その中の1つにでも逃げ込んだのかな?
「…………いや、アッホくさ」
彼女が何のためにわたしを呼んでいたのかは分からない。
ただ、何となくあのままじゃ危ないと思ったから飛び出しただけ。
人違いにせよわたしをからかっていたにせよ、こんな鬼ごっこに付き合う義理はない。
「帰ろっかな。あ、でも」
ポツリとひとりごち、道を戻ってアニ●イト本店方面へと向かおうとした。
新刊で買いたいマンガがあったんだよね。
それを思い出して、少しだけ買い物をしてから帰ろうと思ったその瞬間だった。
「あ、あれ……? は?」
視界に飛び込んできたのは、大通りの付きあたり、首都高5号の高架下の交差点向かい側にいる女の子の姿。
その隣にはーーーつばの付いた帽子を被った、1人の男の姿があった。
茶色のジャケットと黒のパンツを履いている。
夏の装いにしては随分と暑苦しいコーデ。
---つばの、ついた、帽子。
『……女性に声をかける不審者についてですが。つば付きの帽子を被った男が……』
「〜〜〜〜〜!!!!!」
声にならない叫び声をあげそうになりながら、人混みをかき分けて走る。
歩道でぶつかりそうになったカップルの男が、忌々しそうに舌打ちした。
---やばいやばい、あいつアレじゃないの?
今朝ニュースで話題になってた奴じゃないの???
危ないよ!!!
気がつけば横断歩道の目の前まで来ていたが、ちょうど信号が赤に変わったところだった。
彼女は?
いた。既にサンシャインシティ方面へ向かっている。
わたしに背を向けて、帽子の男と一緒にファミマの角を曲がっていくのが見えた。
やだやだ、女の子攫われちゃう!?
肝を冷やしながら信号が青に変わるのを待つ。
車側の信号が赤に変わって、その後の僅かのタイムラグももどかしく、青になったのを確認して交差点を渡り切った。
「………いないんだけど」
通称『乙女ロード』。
オタクな女の子たちを中心に、若者ばかりが大勢行き交う。
---そこにいたはずの「その子」は、いなくなっていた。
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