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えええええ。どうしよう。
彼女は明らかにわたしを意識していた。
知り合いかなぁ。どっかで見たことのあるような気もするんだけど。
それだけだったら諦めて帰ったんだけどね。
あの男。女の子のそばにいた、帽子を被った茶色のジャケット男。
「ええいめんどくさい、もう略して茶男でいいや」
アイツがもしニュースになってた不審者だったら大変なことになる。
このまま何もせず帰って、帰った後に……。
怖いニュースが流れたら、、、
背筋がゾッとした。
この近くには中古のアニメグッズを扱っている店舗がいくつかあり、そこのどこかに入った可能性もある。
そう思ってとりあえず店内を一回りしてみたけど、女の子はどこにもいなかった。
途中、大好きなゲームの推しキャラのぬいぐるみを見つけたけど。
あまりのプレミア価格に、泣く泣く店を出たことは忘れて欲しい。
「ど、どうしよ……交番にでも届け出るかな……」
こっから最寄りだと、一度池袋駅に戻った方が早いかな。
走り回った後で疲れていたし、一端どこかで休むか。
そう思った瞬間。
---どこかからまた。誰かの視線を感じた。
「え………」
思わすあたりをぐるりと見渡す。
アニメやゲームの缶バッジやらぬいぐるみをバッグにつけた、沢山のオタクな女の子たち。
道を往き交い、安売りグッズのワゴンに群がる彼女たちは、自分の欲しいものを探すのに夢中。
---誰も、わたしのことなんか見ていない。
「………」
気にし過ぎなのか。
それより、変質者に連れていかれた女の子を探さなきゃいけない。
無職でも大人だからな。ちゃんと子どもを守る義務くらい果たしてやる。
謎の使命感に駆られて、とりあえず近くの自販機でスポーツドリンクを買って大通りを渡る。
池袋の大型コスプレイベントの際によく使われている公園だ。
ジィジィジィジィ……
ミーンミーンミーンミーン……
シャアシャアシャアシャア……
「---うるせえ」
おっと、つい声に出てしまった。
アブラゼミにミンミンゼミはともかく、比較的珍しいクマゼミまでいるんだ。
本当。都内のど真ん中だってのに、セミさんはどこにでもいるんだね。
むしろ、ビル街の中にある貴重な自然のオアシスだからだろうか。
水場もある東池袋中央公園では、大量のセミが耳が痛くなるような大合唱に勤しんでいた。
「ねぇ」
突然、後ろから声をかけられる。
反射的に振り向いた。
「お姉さん、見つけてくれたんだ」
ええ。
えええええ。
目の前にいたのは、喫茶店からわたしを引きずり出し。
ここまで追いかけさせてきた、先ほどの女の子。
その本人だった。
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