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あの子がいなくなった。
くわえ煙草の先端に火を点けて、クラウスは、深く深く紫煙を吐き出した。
「悪いな、ホリィ」
足元に立てられた四角い石の板の前で、ひどく落胆した様子でつぶやいた。返事は当然、帰ってこない。
クラウスは、小脇に抱えていた赤いバラの花束をじっとみつめた。
「そばにいるうちに、贈ってやるんだったな……」
そういって、うなだれる。
もし直接渡せていたら、彼女なら、とても喜んでくれたのだろう。だが、それはもう、この先一生叶わない。片膝を付いたクラウスは、石の板の前にそっと花束を置いた。
ぐっと奥歯を噛みしめた男は、空を仰いで自嘲した。
指先に挟まれた煙草は、吸われることなく燃え進む。長くなった灰は、こらえられずにぼろりと落ちた。
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