【現在・◯年二月◯日】

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「◯◯さんは、“愛情過敏花弁症(あいじょうかびんかべんしょう)”です」  聞き慣れない言葉に、耳を疑う。  しかし、医者は真剣な顔をしたまま、レントゲン写真へ向き直る。 「心臓の中央に、黒い影があるのが見えますか。これは“種”です。愛情を糧に成長します。蔓が心臓から少しずつ伸び、締めつけていきます。  開花時期を迎えた時。つまり最期の瞬間は、胸肉を突き破り、花を咲かせます」 「……愛情というのは、誰からの、どの程度のものを指すのでしょうか」 「人によって、としか言えません。特定の個人の場合もあれば。不特定多数の場合もあります。一目惚れから、長年連れ添う夫婦のようなものまで。◯◯さんが、愛情と認識したもの。それが、種の育成を促進させると考えて下さい」 「……治療法は、あるのでしょうか」 「正直申し上げまして、これといった治療法は確立されていません。自然に生えている植物と違い、除草剤のような特効薬もありません。  何が◯◯さんの愛情と感じるのか、なるべく早急に見つける事。そして、それを完全に遮断した生活を送る事。延命処置として僕から申し上げられるのは、以上です」
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