episode257 毒が回る時

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episode257 毒が回る時

近頃僕が愛すもの——。 それは夜の覚醒。 そして昼の微睡み。 しかし悪夢はすぐに昼日中にもやってきた。 「和樹坊ちゃま……和樹坊ちゃま!どうされました?」 「中川……」 手の中と唇には蘭の花。 気づけば僕は裸足でガウンを引きずり温室の中にいた。 「こんなところで何をなさっているのです……?」 「いや、何でもないよ……」 足元に散らばった花弁を隠すようにして 僕は心配そうな老執事に向き直る。 「花を……部屋に飾ろうかと思ったんだ……」 ぼんやりした頭で何とか考え答えた。 「そんなことでしたらお申し付けくだされば私が」 「ああ、そうだね……」 しかし僕が変わり者なのは今に始まったことじゃないから老執事はそんなに驚かない。 「お履物は?」 「うん。急いで来たから……裸足……」 「でしたらこちらでお待ちください。すぐにお履物をお持ちしますので」 「ああ……うん」 だけど靴も履いてないのを知るとさすがに訝し気に眉をしかめて。 中川は慌てて温室を出て行った。 「暑……」 白いベンチに腰掛け口内に残った花弁の欠片を引っ張り出す。 「……まいったな」 これで昼夜逆転の生活も意味をなさなくなったわけだ。
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