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「いいよ。けどどっちに?なんて言うの?」
開き直って聞きながら
僕は折り目正しいハンカチの角を頬に滑らせる。
「和樹が寝ぼけて庭の花を食らうって?なんだそりゃって鼻で笑われるのがオチだよ」
「笑ってられりゃあいいがな」
鳶色の危い瞳がいくらかしっかりしてきたのは
他でもない――僕が壊れ役を担ったからではないかと思う。
「薫お兄様、ご心配はありがたいですけど――僕、自分で言いますよ」
「へえ。でどっちに?」
はなから信じていない様子で
薫は胸元から取り出した煙草に火をつけた。
一筋紫煙をくゆらせる間。
僕らは無言で見つめ合う。
「薫お兄様——やり辛いなあと思ってる?」
「何が?」
口角が下がる。
煙を吐き出すためじゃない。
「2人きりになることさ。一度でも僕と寝たから」
僕の言わんとしていることが分かっているから。
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