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「いいや別に。俺にとってあれは単なる事故だ」
洗面台の戸棚から小さな灰皿を取り出すと薫は続けた。
「気持ちがないから。その証拠におまえの取り巻きも俺の事なんか気にもしてないじゃないか」
「だったら気にしているのは僕だけなのか」
誘い文句のような口調が気に入らないのか。
薫は舌打ち交じり鏡越しの僕に煙を吹き付ける。
「話を逸らすなよ。いいか、ルカの一件で俺は十分かき乱された。おまえの所為だ。だけど今になっておまえの方にもきた。これ——あいつなら『天罰』という言い方をするかもしれないな」
「天罰……」
ルカを代弁するような薫の口調にも驚いたが。
それより僕は自分に天罰が下ることを受け入れられない。
「征司お兄様と九条さん両方愛してちゃいけないの?」
「へ?」
「2人から愛されるなら2人分得ちゃいけないの?」
思わず口をついて出た。
無意識だからこそずっとわだかまっていた問題だった。
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