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「俺に聞くか――そんな事」
心底困った顔をして薫はあいた方の手でこめかみを抑える。
「いいか悪いかは別として、今おまえが問題を抱えているのは事実だ。それを——愛しているか愛されてるか知らないが、そのどちらの相手にも言えない」
言葉にしてもらうと分かりやすかった。
鏡の中の僕は細い顎を撫でもっともらしくうんうんと頷く。
「心配かけたくないから」
「今更それはないだろ」
取ってつけたようなセリフに薫が綺麗に並んだ前歯を見せて笑った。
「あのね、もしどちらかにでも僕が問題を抱えてると言ったら……色々説明しなきゃいけなくなるでしょ」
「それが面倒で言わない?」
「うん。愛されているって言うのもね薫お兄様――実のところけっこう大変なんだ」
煙草が短くなる。
「知るか、ボケ」
本人に似て神経質そうな細い指が灰皿の真ん中で火種を揉み消した。
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