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珍しい――。
あたふたと受話器を取り落としそうになりながらあの彼が。
「はい、九条敬です」
すました声で電話口に出てきた。
「どうも、天宮和樹です。さっきの君のお父様?」
「父です」
まだそばにいるのだろう。
努めて真面目に九条さんは言った。
「研修中の者が間違えて父デスクに電話をつないだと」
それから押し殺すような小声で
「妙なこと言ってないだろうね?」
祈るように息を吐く。
「まさか!」
僕は大仰に笑った。
「孔雀狩りに誘ったから頭のおかしい奴だとは思ったかもしれないけどね。大丈夫。ベッドに誘ったりはしてないから」
小声で一言二言交わし足音が遠ざかって行ってから。
「ああ、もう心臓が止まるかと思った」
一人になったんだ。
ようやくいつもの調子で九条さんは僕に尋ねる。
「それで悪戯子猫のご用件は?」
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