episode257 毒が回る時

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「何か言おうと思ってたんだけど、今の面白いので忘れちゃったよ」 それは多分本当だった。 僕は何か言おうと思って彼に電話をかけたんだ。 「でもいいの。とにかくあなたに繋がった——それで」 「それだけでいいの?」 甘い声の響きに目を閉じる。 征司の部屋で九条さんの声を聞くのは背徳的な気がした。 同時にどこか神聖で僕を美しいところへ連れてゆく。 「僕に会いたい?」 「ああ、会いたいよ」 竪琴を持った古代ギリシャの少年たちや 神々のような彼らのパトロンのいるところ。 「僕もね――あなたに会いたい。いつも会いたかった」 酔いが回ったせいだ。 少し舌ったらずな話し方になる。 「僕ね――きっと前世からずっと愛してたんだよ、あなたのことは」 頬が火照る。 何言ってんだか――身悶えるほど恥ずかしいのにまだ口走る。 「あなたの瞳が好き、この世で一番賢い牡鹿みたいだから」
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