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「何か言おうと思ってたんだけど、今の面白いので忘れちゃったよ」
それは多分本当だった。
僕は何か言おうと思って彼に電話をかけたんだ。
「でもいいの。とにかくあなたに繋がった——それで」
「それだけでいいの?」
甘い声の響きに目を閉じる。
征司の部屋で九条さんの声を聞くのは背徳的な気がした。
同時にどこか神聖で僕を美しいところへ連れてゆく。
「僕に会いたい?」
「ああ、会いたいよ」
竪琴を持った古代ギリシャの少年たちや
神々のような彼らのパトロンのいるところ。
「僕もね――あなたに会いたい。いつも会いたかった」
酔いが回ったせいだ。
少し舌ったらずな話し方になる。
「僕ね――きっと前世からずっと愛してたんだよ、あなたのことは」
頬が火照る。
何言ってんだか――身悶えるほど恥ずかしいのにまだ口走る。
「あなたの瞳が好き、この世で一番賢い牡鹿みたいだから」
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