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「これが欲しいの?」
差し出される白い花はぼやけている。
それでも僕は何度も頷いた。
それが僕が本能で欲するものだと知っていたからだ。
「ほうら」
悪戯な笑い声が
僕を釣るみたいに白い花の束を上下に動かす。
「ンンッ……ンンッ……!」
僕は夢中で手を伸ばした。
赤ん坊のように涎を垂らし
今にも泣き出さんばかりに欲した。
「フフフ、和樹って可笑しい……!」
笑い声は甲高く大きくなった。
子供の頃から知ってる。
この笑い声が屋敷に満ちるのは——。
邪魔な大人を世界の外に追い出す時。
ゲームに負けた者に盛大な罰を下す時。
そして——思い通り純粋な悪意が遂行される時だ。
「さあ、召し上がれ」
僕は白い花の束を捕まえた。
小さくて愛らしい鈴蘭の花束だ。
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