43人が本棚に入れています
本棚に追加
夕刻になると。
「どこへ行くの?」
「大人しくしてな、ビッチ」
征司は僕を置いて再び家を出て行った。
「大事な会食があるんだ。娼婦抜きで」
「もう……」
アルマーニなんかきっちり着込んで
全く隙はないですよって顔してさ——。
しかし僕の方は
いよいよ危なくなってきた。
「和樹坊ちゃま!お履物をお持ちしましたのにどこにもいらっしゃらず……」
「ああ、ごめんね。中川。僕はおまえの100倍くらいのスピードで動くんだ」
夕飯の席に降りると今夜は貴恵と薫がいた。
「なんの話?」
可愛い顔して——。
「いいえ、何でも」
「ねえ中川、なんの話?」
僕の事となると貴恵は意地悪く細い眉尻を上げる。
これはきっと死ぬまで続く悪い癖だ。
「いえ、昼間和樹坊ちゃまが裸足で温室にいらしたのでお履物をお持ちしたのですが――」
何かのパイ包みを給仕しながら中川が答える。
「何それ。裸足で庭にいたの?バカみたい」
口には出さないが薫は気づいたようだ。
僕の奇行が太陽の高い時間にまで現れ始めたこと――。
最初のコメントを投稿しよう!