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窓の外には、桜が咲いていた。今朝満開を迎えたその姿は、通りかかった人の足を止める。私もまた、その一人だ。 「綺麗……」 思わず呟いていた。私は桜が好きだ。あの子の一番好きな花だから。 だけど同時に、目にする度、いつも胸がきゅっと苦しくなる。そして、今でも必ず思うんだ。 あの子にも見せてあげたい。一緒に見ることができたら、どんなにいいだろう。 「綺麗だね、モモちゃん」 私はそう言って、視線を自分の傍らへと移した。そこに、一緒に桜を見たかった人の姿はない。あるのは、右肩に掛けたスクール鞄の端っこから、ぴょこんと顔を出しているクマのぬいぐるみ。あの頃よりも色褪せ、汚れも付いてしまったその顔は、窓とは違うところに向いていた。 だから私は鞄を開け、そのぬいぐるみ――モモちゃんを外へと出してあげた。その時だった。 「山口?」 ふと背後から声が聞こえた。振り向くとそこには、一人の男子生徒の姿。 クラスメートの柳くんだ。私の心臓はドクンと高鳴った。 「何やってるの?」 柳くんはそう言いながら、こちらに近付いてくる。その視線は、私ではなく腕の中のぬいぐるみに向いていた。だから私はつい「何もしてないよ」なんて答えてしまう。 「帰ろうとしてたところ」 せっかく話をするチャンスだったのに。 本当にダメだなあ、私。 そう思って落ち込んでしまう。しかしそんな私に、柳くんは言った。 「じゃあ、一緒に帰らない?」 びっくりした。予想外の言葉過ぎて、思わずモモちゃんから手を放してしまいそうになる。 「俺も帰るとこだったし......無理にとは言わないけど」 「全然、無理じゃないよ!」 私は慌てて声を上げた。自分でも思った以上の声量だったが、それは柳くんからしても同じだったのかもしれない。 少し驚いたような顔をした後、微かに笑った。普段がポーカーフェイスだから、ちょっと笑うだけでドキッとしてしまう。 「じゃあ、行こう」 少し後ろを気にする仕草を見せた後、柳くんはそう言ってスタスタと歩き出した。二人で帰るところを知り合いに見られるのが、恥ずかしかったのかもしれない。 「ちょっと待って」 私はそう言って、急いでモモちゃんを鞄に戻すと、放課後で賑わう廊下を、人にぶつからないように気を付けながら駆け出した。
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