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僕はいなくならなければならなかった
僕はまた、友達の前から姿を消した。
僕は子供の頃から「地球温暖化に取り組もう!」「戦争はやめよう!」などと言い出す、いわゆるマセガキだった。だから学生の頃からいじめられていて、友達の少ない僕。しかしそんな中で、何人か仲良くしてくれる人がいた。
特に小学生の頃からずっと一緒のクラスだったおさななじみのミドリちゃんは、何かと私をかばってくれた。男女としての特別な感情は無かったが、特に大切な友達だった。
ミドリちゃんとはこんなことがあった。子供の頃、彫刻刀で指を怪我してしまった。すると彼女は紙を差し出して、血を取ってくれたのだ。
「ありがとう」と言うと、彼女はクスクスと笑っていた。
そして彼女は、何人かの友達を紹介してくれた。彼らとは仲良くできて、僕は彼らを「雨天の友」だと信じていた。だから、何とか高校まで卒業することができた。
卒業と同時に、何故かミドリちゃん他、友達は僕の前からいなくなったが、卒業してから疎遠になることなど、よくあることなので、特に気にしていなかった。
それから数年が経ち、ある日突然、いなくなったはずの一人から「久しぶりに会わないか?」と連絡があった。
うれしくてその日は精一杯小綺麗にして、彼の待つファミレスに向かった。
すると、彼の他にもう一人、長身の男性がいた。
久しぶりと挨拶したのもつかの間、彼らのネットワークビジネスの講義が始まってしまった。
「絶対に儲かるから! 一緒にやろう!」
しつこく勧誘されたが、僕はその話を何とか断り、逃げ帰った。
次の日から彼とは友達ではなくなった。友達を売り渡す人は友人とは言わない。だから僕から姿を消したのだ。
その後、当時の何人かの友達から誘いを受け、今度こそ単なる近況報告だと思ったが、結果はほぼ同じ。その度に僕は彼らの前からいなくなった。彼らは「雨天の友」ではなかったのだ。
学生からの友達もあと一人となってしまった。女友達のミドリちゃんだ。
ある秋の夜、突然彼女から久しぶりに会わないかと電話があった。
さあどうしよう。これはまたマルチ商法のお誘いか、それとも……、ああでも、ミドリちゃんがそんなことするわけない!
迷った挙げ句に会う約束をするが、少し心配になったぼくは、恩師に電話してみることにした。
「こんばんは、すみません、ミドリさんが最近どうしているか、何かわかりますか?」
「ミドリちゃん!? そんな子いたかなあ? 名簿にも見当たらないし……」
恩師はよくわからないようだった。一瞬疑問に思ったが、たくさんの生徒を見なければならない立場。こういうこともあるのだろうか……!?
日曜日、ぼくはミドリちゃんの家に来た。待ち合わせ場所にここを指定されたのだ。古びた洋館のドアを開けると、彼女が待っていた。
「久しぶりですね」
彼女に連れられて応接室に通されると、そこには黒い礼服を着た男がいた。ああ、やはりそうだ。そうなんだ。このパターンだ。僕は絶望感にうちひしがれた。彼女の前からも消えなければならないのだ。
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