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安心しきった紗和の前に、ずいっと権代の端正な顔が突き出される。
——ちっ近い。権代さんってけっこう目おっきいよね、近いっ、この目に私が映ってるの本当は奇跡なんじゃ……って近い!
「あ、あの……な、なにかっ?!」
権代は紗和の茶色の瞳を見つめながら、静かに尋ねた。
「紗和ちゃんは、上の人に怒られたりしなかった?」
「え? しませんよ?」
含みのない返答を聞くと彼は胸を撫で下ろす。
「良かった。俺なんか庇って怒られてたら立つ瀬がないからな」
——こんな優しい人を薄っぺらいだなんて。あの田辺次長の顔思い出して腑が煮え繰り返る。
「構わないでください。権代さんの名誉の為に怒られるなら本望です」
権代は両拳を握りしめて息巻く紗和を見ると、感謝に先立って可笑しさが出てきたのかゲラゲラと涙目で笑い出した。
「……時代物の忠臣じゃないんだからさ!」
本当にそう思ってるのに。紗和は赤面しながら頬を膨らませた。
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