1章

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1章

都心に位置する、とある会社の一角に設けられた小さな休憩所。自動販売機で微糖の缶コーヒーを買い壁にもたれかかっているのは、社内トップクラスの売上実績を持つ営業部社員の権代透(ごんだいとおる)だ。スラリとした長身、涼しい鼻梁、人好きのするやや垂れた瞳。当然女性社員の人気は抜群で、寄って来た女全てを相手にしてるのではないかと思うほど、女性関係は派手派手しい。その彼の前に、一人の女性社員が一歩一歩足を踏み出していく。この光景はこの社内においてあまり珍しいものではない。 「権代さん、ですよね?」 女に声を掛けられ慣れている権代は、少しばかり目を丸くする。 「ん? そうだけど」 平均よりやや小柄。デコルテの空いたインナーをダークスーツの下から覗かせ、はっきりとした二重にくっきりと黒いアイラインを引き、華奢な唇に艶がある紅い口紅を塗って、権代を上目遣いに見つめている。 「初めまして。私、総務の北村紗和(きたむらさわ)と申します」 低めで落ち着きある声、一番色気が出る声の出し方を研究して臨んでいた。 「北村さんね。初めまして」 権代はにこり、といつものように口角を上げる。
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