1章

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「君さ、あんまり俺のこと好きじゃないだろ?」 「へっ?」 権代がやんわり指摘した瞬間、紗和の声が飛び上がる。喉を鳴らす権代は、彼女の手をそっと取って少し弄んだ。 「ほら、手がガチガチじゃないか。冷たいし。汗かいてるならわかるけど」 言い訳を始める彼女の地声は本来は先程の声と比べるとワントーン位高い。 「緊張すると冷えて……」 「逆じゃね? あと君、いつもはこんなカッコしてないだろ。インナーに指定はないはずだけど、ブラウスの第一ボタンまで嵌めててさ。そんな胸元開いたセクシーなの着ないだろ」 紗和は元々丸い目をさらに真ん丸にした。 「なんで知って」 「見てたよ。確かに初めましてだけど、会社ですれ違ったりとかはするだろ? 君が俺を見ていたように、俺が君を見ていたとしても不思議はない。君みたいな真面目な子は大概俺みたいなチャラついた男嫌いだからなー」 自分のことを「チャラい」と称する権代は余裕の微笑を浮かべ、子犬をからかうように彼女の反応を楽しんでいる。紗和の急拵(きゅうごしら)えの仮面はもう完全に剥がし取られていた。 「……〜っ!」 悔しそうに紗和に睨まれて、権代はご満悦だ。 「ハハッ、やっと赤い顔になった。面白いな……いいぜ?」 権代は無意識に距離を取ろうとする紗和の腕を掴む。紗和は捕まえられた自分の腕を見て、それから涼しい顔をした権代に目線を移した。
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