1章

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 御手洗いに寄ったあと出入口に続く階段を降りようとする寸前、紗和は肩を掴まれる。 「えっ」  グニャッと粘土でも掴むかのような無遠慮さで、紗和は嫌な気配を察した。 「……!?」  ミスでもしたろうかと、こわごわ振り返って安心半分悪寒半分。家川が薄気味悪い笑顔で紗和の肩を握り潰している。 「昨日、透くんと一緒にどっか行ってたよね? 車乗ってるの見ちゃった」  ——この人全然サバサバ系じゃないな……。  紗和は無理矢理彼女の手を押しのけて距離を取った。 「透くんオーシャン系の香水好きだよね。いつもそれなんだよ」  ——確かに権代さんの車はなんか海っぽい爽やかな匂いがしたけど、唐突にその話をしてどうするのだろう。 「へぇ、権代さんに似合いますよね」  適当に流そうとしたが、家川は笑顔のまま詰問を続けた。 「ねぇ、どこ行ってたの?」 「お食事に。天ぷら屋さんです」 「イタリアンとかじゃないんだ、意外」 「イタリアンは前行きましたから。最近できたからちょうどいいということで」  ——いけない、余計なことを言っちゃった。 「ふーん……」  コツコツとヒールが床を叩く音が聞こえたと思ったら、耳に家川の吐息が掛かり鳥肌が立つ。
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