938人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
御手洗いに寄ったあと出入口に続く階段を降りようとする寸前、紗和は肩を掴まれる。
「えっ」
グニャッと粘土でも掴むかのような無遠慮さで、紗和は嫌な気配を察した。
「……!?」
ミスでもしたろうかと、こわごわ振り返って安心半分悪寒半分。家川が薄気味悪い笑顔で紗和の肩を握り潰している。
「昨日、透くんと一緒にどっか行ってたよね? 車乗ってるの見ちゃった」
——この人全然サバサバ系じゃないな……。
紗和は無理矢理彼女の手を押しのけて距離を取った。
「透くんオーシャン系の香水好きだよね。いつもそれなんだよ」
——確かに権代さんの車はなんか海っぽい爽やかな匂いがしたけど、唐突にその話をしてどうするのだろう。
「へぇ、権代さんに似合いますよね」
適当に流そうとしたが、家川は笑顔のまま詰問を続けた。
「ねぇ、どこ行ってたの?」
「お食事に。天ぷら屋さんです」
「イタリアンとかじゃないんだ、意外」
「イタリアンは前行きましたから。最近できたからちょうどいいということで」
——いけない、余計なことを言っちゃった。
「ふーん……」
コツコツとヒールが床を叩く音が聞こえたと思ったら、耳に家川の吐息が掛かり鳥肌が立つ。
最初のコメントを投稿しよう!