第1章  錯覚世界

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「私は別に構わないわよ」 「俺が困るんだよ! よく、俺の姿で平然といられるなぁ?」 「平然じゃないわよ。私だって、少し驚いているわ。なんで、あなたのような人の体に入ってしまったのか。今でも後悔しているもの……」  氷童は額に手を当てて、困っている様子を見せた。 「こっちはこっちで、授業中にサボれないんだよ。普通に窓の外を見ながら、ゆっくりと授業を受ける。そんな感じが好きだったのにどうすればいいんだよ……」 「真面目に勉強すればいいじゃない」 「いや、そうなんだけどさぁ……」  俺は、氷童に本当のことを指摘されて落ち込む。 「とにかく、今日一日はこのままで過ごすしかないな。この姿だったら周りから話しかけられることもないだろうし、その点は大丈夫だが、俺の方は、男だからな。話を合わせるのは面倒だろうが、何も行動を起こすなよ」  本当にこれでいいのだろうか。俺は、悩みに悩んで事の重大さをこの後、もっと思い知らされるとは思ってもいなかった。  昼休み−−−−  俺と氷童は教室を抜け出して、科学部の部室へと弁当を持っていった。扉を開けると、昨日の二人が集まっていた。不破と一ノ瀬だ。二年生の二人はまだ姿を現していない。部屋の中央には、テーブルが置かれており、それを囲うように俺たちは座る。俺の向かい側に氷童が座り、右横に不破が座っている。不破の向かい側には一ノ瀬が座って、弁当を食べ始めていた。  少ししてから残りの二人もこの部屋に顔を出し、ようやく六人全員が出揃う。  俺は間を開けてから口を開いた。 「少しいいですかね?」  氷童の姿で手を上げると、皆が注目する。無理もない。昨日とおかしな点があるからだ。 「氷童さん、何かあったのですか?」  不破が聞く。 「ああ、今朝、俺と氷童の姿が入れ替わっていた」 「え?」  不破が驚く。周りの奴らも驚いた。どうやら、まだ見分けがついていなかったらしい。声は、氷童だから仕方がない。 「つまり、俺と氷童は別々の体に入れ替わっているんだよ。今朝、起きたらこうなっていたんだよ」  俺が、氷童を指差して言う。
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