第1章  錯覚世界

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「はぁ?」  綾瀬の言っている事が理解できなかった。こいつ、今何言ったんだ? と、いう顔をして氷童は綾瀬を冷たい目で見る。 「そうよ、唇と唇を重ね合わせるの」  綾瀬は人差し指と人差し指を重ね合わせてそう言った。 「唇を合わせるって、なんでだよ。理由の説明を求める。即刻に言え」  俺は綾瀬に言った。 「それはねぇー、それは面白そうだからよ」 「それが最後の言葉でいいんだな?」  俺は氷童の顔で綾瀬を睨みつける。これが効いたのか、綾瀬は「ひっ」と、小さな声を上げ、ちょっと後ろに退く。この女の姿でいると、人が離れる意味がわかるような気がする。 「でも、何かに接触した事で二人の体が元に戻るんじゃないの? 私、そういうのは、漫画や小説で何度も見てきたから分かるの。ああ、これはキスか頭と頭をぶつけ合うしかない。最近読んだものだと、魔法を使った物語だったような。そんなのどうだっていいわ。早く、試しにやってみるべきよ!」  綾瀬は、すぐに開き直って再び言い出す。 「綾瀬さん、それはいい案かもしれないかもしれないけど、それはやる方にとっては苦肉の策よ」  俺の顔で睨みつける氷童は、俺はそんな怖い顔をしないと思った。  だが、苦肉の策というが、綾瀬の指摘している所は、ある意味間違っていない。俺もそんな物語を見た事があるからだ。  しかし、それはおとぎ話にしか過ぎないと思っていたのだ。この世界は所謂おとぎの国だ。 「それじゃあ、この話は一度ここでお開きにしましょうか? 時間を見てください」  不和が手を合わせ、注目を集めると、時計の方を指差した。  後十数分で、掃除の時間がやってくる。 「それもそうだな。みんなも早く教室に戻らないと、荷物の移動とかあるだろ?」  真壁先輩が言った。  それぞれが昼食を終えると、一度、この部屋を後にする。真壁先輩と志穂さんは、三階から中校舎の二階に繋がる渡り廊下を歩いて帰る。  俺と氷童、不和、綾瀬は、二階から繋がる渡り廊下を歩く。それぞれが別れた後、教室に戻ると、丁度いいタイミングで掃除の時間となった。  音楽が鳴り始め、急いで荷物持ち、机の上に椅子を重ね、前へ運ぶ。  一番前の席の為、運ぶのは楽だが、机の渋滞から抜け出すのは一苦労である。障害物を避けながらその渋滞を抜け出すと、氷童が俺の肩を叩いてくる。
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