12人が本棚に入れています
本棚に追加
昼休み−−−−
クラスの三分の一の生徒たちが、四限目を終えると、教室から姿を消す。彼らは、これから弱肉強食の戦いへと行くのだ。昼休みの時間と同時に売店が開き、一年から三年までがパンやジュース、弁当をめぐって格闘をし始める。開店して十数分後には、ほとんどの商品が売れ切れ状態となっているのだ。まあ、飲み物だけは売れ残る事が多い。
俺は家から持参してきた弁当を机の上に広げて、静かに食べ始める。
「伊織。ここ、いい?」
と、俺の目の前に男子生徒が声を掛けてきた。
俺と同じくらいの身長、顔は国宝級と言っても間違いないであろうイケメン顔。
佐久間光一。
それが彼の名前である。中学の頃からの仲であり、こうして、弁当を一緒に食べる事が多い。周りの女子からは『なぜ?』と思われるだろうが、こいつはこう見えて、女子が思っているとは真逆の人間なのである。外面は良く、勉強もでき、スポーツもできる。主にテニス部員。だが、俺の前では普段誰にも見せない光一の姿を拝む事が出来るのだ。ああ、忌々しい、忌々しい。
「そういえば、今朝は大変だったな、お前」
「何が?」
俺はおかずを口の中に入れながら、光一の話に耳を傾けた。
「ほら、今朝の氷姫の事だよ」
「ああ……」
すっかり忘れていた。
朝のことなんて、俺にとってはどうでもいいことである。そもそも、女子とあまり話をしない俺からしてみれば、彼女の事なんてこれっぽっちも思っていない。
「スゲーよな。普通、奴に話しかけるような人間はいないぞ。皆、関わろうとしない。あれを見てみろ」
と、光一は自分の後ろの方を指差す。
そこには一人で静かに食事をとっている氷童の姿があった。光一の言う通り、周りに彼女と一緒に食事をしようと思う女子はいない。まだ、入学して一ヶ月も経っていないのにこの有り様だ。
光一からの情報によると、彼女は幼き頃から周りの人間と少し変わった性格らしい。その近付きにくいオーラは今も健在で、その後ろ姿は淋しそうにも見えた。
「そうだ。今度、遊びに行かないか?」
「どこに?」
「海だよ、海」
「はぁ?」
俺は面倒臭そうな声を出す。
最初のコメントを投稿しよう!