12人が本棚に入れています
本棚に追加
「朝の海だよ。ほら、朝からサーフィンを久しぶりにやろうかなって思っているんだよ。昔、良くやっていただろ?」
「ああ、冷たいんだよなぁ。朝の海に入るのは……。それに今はまだ、春だしな……」
俺はやりたくないオーラを出すが、光一はそんな事御構い無しに俺を誘ってきやがる。ここ、南国の県は、サーフィンの聖地としても有名であり、毎年九月上旬ごろになると、国際大会が行なわれる。この国際大会には世界中のトッププロ選手が集まり、熱い戦いをしているのだ。
「そこを何とか? 朝から俺に付き合ってくれるのはお前しかいないだろ?」
と、俺に手を合わせて頼んでくる。
「まぁ、海は一人で来るものじゃないからな」
俺は、チラッと光一の方を見る。光一はそれを見越して、追加オプションを付けてきたのだ。
「分かった。帰りにコンビニで何か奢ってあげるから……」
「決まりだな。忘れるなよ」
交渉成立。ま、これぐらいの礼はしてもらわないと困る。朝サーフィンは、趣味でやっている人も多く、朝から結構な人を見かける。それに今日の日差しは、明日も続くらしい。天候は良好だ。海で泳いでいても問題ないだろう。
そう思いながら、俺は弁当の中身を全て食べ終えた。
× × ×
翌日−−
俺はサーフボードを背中に背負い、朝の五時頃から近くの海に直行していた。空はまだ薄暗く、東の地平線上から太陽が少しだけ顔を出していた。海には、十数人のサーファー達が、朝から冷たい海に入り、波に乗っている。時計を確認し、辺りを見渡すが光一の姿が見当たらない。奴から誘ってきたのにその当の本人が居ないのはどういった心境だろうか。少し待つが、姿が見えない。十分、二十分、待っても光一の姿は一向に見えない。
そして、三十分が過ぎた頃−−
光一はここに現れなかった。太陽も昇り始め、日の出時間も過ぎている。俺は電話を掛けてみるが、繋がらない。つまり、音信不通の状態だ。今まで、こんなことはなかった。急用が出来た場合は、連絡を必ず入れてくる奴だ。一体どうしたのだろうか。気になってしょうがない。心配だ。
仕方なく、そのまま何もせずに帰ることにした。
家に帰り、朝食ができるまでの時間、もう一度眠りにつく。目覚まし時計が鳴り、再び起きると、太陽は昇っていた。すぐに制服に着替え、朝食を食べ終えると、弁当をバックの中に入れ、家を出る。自転車を漕ぎ、二十分後には西高に着いていた。
最初のコメントを投稿しよう!