ひよこさん、いなくなる。

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 ゆうかちゃんは少し休憩して部屋中見回したあと、箪笥の引き出しを開け始めた。えっせえっせと体重全てを使って、少しずつ引き出しを開けようとしている。きっとゆうかちゃんなりにひよこさんがいそうな場所を考えた結果なのだろう。  ――まあ、実は仏壇の前にひよこさんが供えられているのだけど、ゆうかちゃんはそれに全く気付いていない。  一番下の引き出しをなんとか開けて中身を全て外に出したゆうかちゃんはタンスを見上げて動きを止めた。上の引き出しには届かない。  ゆうかちゃんは踏み台を持ってこようと一旦、仏間から出ることにした。 「じ、じぃじ……!」  でも、仏間の出入口にはおじいちゃんが立っていた。きっと騒々しかったので様子を見に来たのだろう。  おじいちゃんは部屋の様子を見て難しい顔をする。  それに対して「あ、あのね!」とゆうかちゃんは慌てて駆け寄った。 「ひよこさんがいなくなったの!」 「ひよこ?」  ゆうかちゃんの訴えに対して、おじいちゃんは首を傾げて仏壇へ視線を向ける。それを見てゆうかちゃんも仏壇の方を向くと、目を丸くした。 「ひよこさん!」  嬉しそうに仏壇へ駆ける。ひよこさん見つけたひよこさんをじっくり見たあと、満面の笑みになった。 「じぃじ、ありがと!」  ゆうかちゃんは「もういなくなっちゃだめだよー」とひよこさんを持って台所へ戻ろうとする。 「ああ、それはゆうかのものだったのか。秀男もそれが好きだったからてっきり……」  その姿を見ておじいちゃんが思わず言った独り言に、ゆうかちゃんは反応して立ち止まる。 「ひでお?」  そう言いながら、仏壇を指差した。 「あのこがひでお?」  おじいちゃんがひよこさんを連れ去ったの……? って話ではなく前からあった仏壇の写真の人物が誰なのか聞いてきた。  ついでに、この仏壇にひよこさんを供えたのはゆうかちゃんのおばあちゃんだ。 「そうだ」 「もういないの?」 「ああ」 「なんで?」  ゆうかちゃんは仏壇の意味はわからないけど、そこに飾られる写真の人間がこの世にいないことはわかっている。 「それは……」  おじいちゃんは言葉に迷う。きっと罵詈雑言に近いものが吐き出されると思った。 「それは人より自立が早かったからだよ」  でも、それは被害妄想だったようで、かなり言葉を選んでもらえた。 「じりつってなに?」  ゆうかちゃんは当然、その言葉の意味を知らない。  おじいちゃんは頭を捻る。 「基本的には自分の家から出て新しい家に暮らすってことだよ」  おじいちゃんはゆうかちゃんのためにわかりやすく伝えようとしたけれど、ゆうかちゃんは「へぇー」とよくわかっていないしあまり興味もなさそうだった。 「秀男は誰よりもこの家を早く出たんだ。末っ子なのに。それだけなら良かったんだが、運がとても悪かった」 「そのこもゆうれいになってここにきてるのかなー」  ゆうかちゃんはお母さんに教えてもらったお盆の意味を思い出して、そう言う。
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