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耳障りな甲高い音が部屋中に響いている。
その音を辿っていくと台所に着いて、扉が開きっぱなしの冷蔵庫の前で椅子の上に立ち顔面蒼白になっている女の子が一人いた。
その子の名前はゆうかちゃん。ゆうかちゃんは今は四歳だけど明後日で五歳になる女の子だ。
「ひ、ひよこさんが……」
ゆうかちゃんは涙声でそう呟くと、顔をぐしゃりと歪ませた。
ひよこさんは福岡銘菓のお饅頭だ。いんげん豆で出来た餡を卵と小麦粉で出来た皮で包んで出来ている。その形がひよこの形をしているのでひよこさんという、断じて東京銘菓などではない、福岡のお菓子だ。
冷蔵庫にいた、いなくなったひよこさんは通常のひよこさんより二回りくらい大きなひよこさんだ。家族三人で買い物に行ったとき、ゆうかちゃんはこれを買ってもらった。寝転がり手足をジタバタして、周りから白い目で見られながら二時間くらい駄々をこねた、らしい。
そんな労働(?)の末にやっと手に入れたひよこさんがいなくなった。毎日最低一回は冷蔵庫を開けて顔を見ていたのに。
ゆうかちゃんは細かく身体を震わせて、今にも大声で泣き出しそうな表情だ。
「う、うぅっ、ひぃ……!」
顔をぐちゃぐちゃにしながら息を大きく吸う。
これから大きく口を開けて泣き出すかと思ったら、ごしごしと服の袖で涙を拭いた。
「さがさなきゃ……」
ゆうかちゃんはいつもよりキリッとした表情でそう決意して、椅子からぴょんと降りる。
そして、冷蔵庫を開けっぱなしにして、台所から出て行った。冷蔵庫はしばらくして諦めたように音がしなくなった。
「ひよこさん、どこー?」
ゆうかちゃんは家中のゴミ箱をひっくり返して中身を見ている。
ここは仏間だ。仏壇には若い男の写真が飾られている。ゆうかちゃんは幽霊が怖くて滅多なことでは入らない。
しかし、今はその滅多なことだ。ひよこさんがいなくなった。行方不明だ。
勇気を出して入ると、幽霊なんてどこにも見当たらなくてすっかりそのことは忘れてしまった。
今、仏間にはいくつものスーツケースやボストンバッグが置いてある。それはお盆で親戚が集まってきているからだ。この家は二世帯住宅でゆうかちゃんのお父さんは長男だ。
今日居る親戚は全員、買い出しに出ている。それは夕食のためとゆうかちゃんの誕生日祝いの準備のためだ。
ゆうかちゃんはぐっすりお昼寝をしていたので置いていかれた。
「かくれてないで、でておいでー」
ゆうかちゃんの呼び掛けに答えが返ってくる訳がない。
ゆうかちゃんはゴミ箱の中身を全部確認したあと、やりきったという表情をして息を吐いた。
「ひよこさん、まだちゃんといるのかなー……」
安堵した表情でそう呟く。言葉の意味は――恐らくまだ誰にも食べられていないってことなのだろう。たぶん。
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