選択肢C

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選択肢C

今回の「ラブレター事件」が相当堪えた私たちは、しばらく軽い気持ちでホラーを観たり肝試しをしなくなった。 廃病院へ行っちゃだめ。 廃病院で鳴った電話に出ちゃだめ。 更に、その電話にかけ直しちゃだめ。 更に更に、電話の近くの万年筆なんて持ってきちゃだめ。 後日、私は知り合いのストーカー相談を受けた。 不気味な手紙が来るんだって。どこかで聞いた話だと思って手紙を開いたら、彼に送られて来たラブレターとほぼ同じ内容。 お嬢さんや。どこかの病院に肝試しに行きはしませんでしたかい? チベットスナギツネは知り合いである彼女に尋ねた。 はぁ?行ったけど…? そこで万年筆とか、拾ってきませんでしたかい? 拾ったかもだけど、それが何? 私は自分たちに起こった「ラブレター事件」を彼女に話した。 話したけど。 「はぁ?そんなことあるわけないじゃん。 相談して損した」 彼女は私を信じなかった。 多分、万年筆はあるべき所に戻らなかったんだろうね。 それから1週間もしない内に、彼女は行方不明になった。 そして、発見された。 見るも無惨なバラバラな形で。 鼻の形が可愛かった彼女。 鼻がなかった。 長い髪が綺麗で自慢だった。 バサバサに切られ、ショートになっていた。 足がすらりと伸びていた。 片足なかった。 彼氏に指輪を貰ったと幸せそうに話していた。 指ごと指輪はなくなった。 ヘビースモーカーであった彼女。 肺がズタズタに切り裂かれていた。 妊娠したと最近報告をされた。 …赤ちゃん… 私はあの気持ち悪い「ラブレター」に込められた意味に気づいた。 万年筆を返して欲しい。結局最後はそうなのかもしれない。 でも、私がずっと感じていた得体の知れない気持ち悪さ。 この「ラブレター」を送った医師の「ラブ」は、「体の部位」に対して。 心中事件の医師は、外科医だった。 知り合いの彼女は、手紙で指摘された部分を持っていかれ、気にくわない部分は潰された。 「あなたは素敵だ」の言葉の裏には、「あなたの身体は物体として素敵だ」という闇が潜んでいた。 可哀想に、こんなことになるなんて。 彼女の葬式に参列して私は涙を流す。 「私のこともっと信じてくれてたら」 こんなことにはならなかったのかもしれない。 「ダメよ。あの子は貴女を信頼してなかったもの」 アタシみたいに手を伸ばすことも、繋ぐこともしなかったわ。 私の隣には、彼が手を握って一緒に立ってくれている。 貴方を守れてよかった。 貴女を信じてよかった。 貴方が隣にいてくれてよかった。 貴女がアタシを見てくれてよかった。 あなたがあなたでいてくれてよかった。
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