手紙

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手紙

ばさりと音を立てて置かれた物は、大量の手紙であった。 「うわなにこれ」 「手紙」 「いや、見ればわかるけど」 「病院から帰ってきてから届くようになったのよ」 「はい?!全部?」 「全部よ。しかも、中身がマジヤバ」 中身? 1枚を手に取って広げて見ると、頭に1つの単語が浮かんだ。 ストーカーだー!!! 私が見た手紙にはこう書いてあった。 『一目見てあなたの可愛らしい笑顔に惹かれた』 更に次の手紙。 『細く美しい指をお持ちだ』 更に次。 『綺麗な目をしている』 次。 『よく手入れされた髪と爪だ』 つぎ 『ピアスはよくない』 つ 『バランスの取れた体型だが、もう少し筋肉を減らそう』 … 『その日焼け止めは肌に合っていない』 私の顔は既にチベットスナギツネと化していた。 「…よくモテてるね」 「違うわ。これ、おかしいのよ」 「えっとー…何が?」 私はもう考えることを諦めていた。 「まずわね、手紙の封筒見てみて。全部同じだから1枚だけでいいわよ?」 私は見た。 見たことがある住所だった。そして、差出人。 消印は なかった。 「…これ、おかしいね」 「そうでしょ?」 書かれた住所は病院のある場所だった。それも、あの廃病院のものである。 そして、差出人は男性の名前。 「アタシね。あの後この手紙が来るようになって事件のこと調べてみたのよ。そしたら」 心中事件の看護婦と医師は死亡している。 医師の名前は 「この差出人、その医師の名前と同じなのよ」 偶然? 「それに気持ち悪いわ。男からこんな手紙来るなんて」 アタシ、男なのに。 そうだ。私の友人は見た目ガッツリムキムキ男性だ。 言葉づかいや雑貨とかの好みだけは女の子だけど、れっきとした男性。オネエっていうの? 詳しいことは知らないし、全く気にしていない。だって、大事なのは「彼」が私の大切な友人だってこと。 とにかく、男性が男性に対して「可愛らしい笑顔」「細く美しい指」とか言うだろうか? それに、なんかやけに体について褒めてるみたい。 ようは、キモい。 「内容がこれだから」 かたん 郵便口から音がした。 「今、郵便が」 「まって」 彼が私の手を強く握った。 手が、震えていた。 「あの病院から帰ってきてから、ずっと届くのよ。こんな手紙が。今みたいに」 かたん また、郵便口から音がした。 「気持ち悪いわ」 そうだ。気持ち悪い。 「止めないといけないよ」 テーブルの上の万年筆を見る。 万年筆には、手紙の差出人と同じ名前が刻まれていた。 きっかけは、きっとこの万年筆。 「返したいんでしょ?これ」 私は笑って、彼の大きな手を握った。 答えはわかっていたのよ。 万年筆を元の所へ返せばこの手紙は止まるんだって。 一応、そのとき郵便口に入れられた手紙を廃病院へ向かう車の中で開いてみた。 すぐ閉じた。 他の手紙と一緒にコンビニの白い袋に詰めた。 帰りにでも、コンビニに寄って捨ててこよう。うん。 その手紙には 『あなたの体はとても魅力的だ』 『だから、僕の万年筆を返して』 と書かれていた。 万年筆を返してと言うだけなのに、こんなストーカー染みた「ラブレター」を大量に送りつけやがって。 廃病院に着いて、部屋へ行って。あの時と変わらない机の上に私たちは万年筆を置いた。 電話が鳴らないうちに病院を出た。 手紙がぎっしり詰まった白い袋は、角のコンビニのゴミ箱へ入れてきた。 すまん、コンビニ店員くん。 私たちは彼の家へ戻り、いつものようにひとつの同じ部屋で眠りについた。 郵便口からは、もう新たな手紙が届く音は聞こえなかった。
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