「消える少年…」

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何処の町でも“ごみの収集車”は“子供”に大人気だ。走行中に鳴る放送に、派手な色合い、 車輌後部が動き、収集員がごみを放り込めば、いくらでも飲み込んでいく姿は、普通車と違う魅力を感じさせるようである。赤ん坊か、幼稚園くらいなら親が付き添い、 手を振るくらいで問題ないが、小学校低学年くらいにもなると、収集車に近づいたり、 ごみを投げ入れたりするので、注意が必要だと“友人”は話す。 夏のある日の事だ。住宅街での収集業務を担当していた彼は、暑さと、ステーションに積み上げられた、多量のごみに辟易していた。早朝の時間で、人通りは少ないが、蝉の声がうるさく鳴る時間にもなれば、気温は一気に上がる。オマケに時期は夏休み。通学中の小学生はいないが、家庭ごみの量は通常時の倍になる。正直、勘弁してほしい日々が続くと言う。 この時期、運転を担当する先輩はだいたい降りてこない。早く冷房の効いた車内に戻りたくて、友人はせっせと作業を行っていた。やがて、回転盤が回り、轟音が鳴る収集口とごみの山を交互に視線を送る彼は“異変”に気付いた。積み上がった、ごみの山が崩れていくにつれ、何かが視界に見え隠れする。初めは夏特有の坊主頭が見え、次に無表情な目と顔、そして白が、少し黄ばんだ古い柄のシャツ、人形?違う、これは… 「おい!大丈夫か?」 友人は収集口の回転盤を慌てて止め、ごみの中に埋まる“少年”の元に駆け寄った。何かの イタズラ?それとも事件?様々な考えが浮かんだが、それを差し置いて、 早く出してあげなければと言う気持ちが先だったと彼は話す。 手早くごみ袋をどかし、まばたき一つしないで、こちらを見つめる少年の肩に手を掛けようとした瞬間、鋭い光が起こり、友人曰く、少年が“ハジけた”血しぶきも肉片も飛んだ訳ではない。だが“ハジけて”消えたように見えたと言う。 時間が経ちすぎたのだろう(ステーション一箇所につき、収集時間は1~2分である) 呆然と、その場にへたりこむ友人の隣に先輩が並ぶ。怒鳴られるかと思えば、そうではなく、少年の消えた辺りを黙って見つめている。運転手はミラーと後方モニターで収集作業を見る事が出来る。彼も同じモノを見たのだ。 「先輩…」 ようやく声が出た友人に先輩は、 「まぁ、今日はそういう日だからな…」 と答え、手を合わせた後、作業を始める。友人もそれに続き、どうにか収集を 終わらせたと言う。8月6日の朝の事であった…(終)
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